経団連は4月5日、東京・大手町の経団連会館で、未来産業・技術委員会(山西健一郎委員長、畑中好彦委員長、小野寺正委員長)を開催し、慶應義塾大学環境情報学部教授兼ヤフーCSOの安宅和人氏から、「“シン・ニホン” AI×データ時代における日本の再生と人材育成」と題し説明を聞くとともに意見交換を行った。説明の概要は次のとおり。
■ 世界のトレンドと日本の立ち位置
人間のトップ棋士が機械に敗れたのは記憶に新しい。AIの進歩のスピードはすさまじく、あらゆる産業がデータ×AI化する流れは避けられない。また、分子レベルでデザイン可能になり、人間の胚における遺伝子改変にも成功するなど、今は歴史的な局面にある。
一方、日本の現状は悲惨だ。時価総額は企業単位では、中国のみならず韓国にも負けている。一人当たりGDPも伸びていない、半ば一人負けである。未来を変えるAI等のプレゼンスも低い。データはなく、あっても規制で使えず、ドローンや自動運転にも制度は対応していない。新卒学生は、問題定義やプログラミングができない。ミドル層、マネジメント層も「じゃまオジ」といえるような現状である。
しかし悲観してはいけない。これは明治時代の黒船到来に近い状態と思っている。そこからなんとかなったのが日本である。GDP、技術はいまだトップ3に位置し、歴史的にみても応用フェーズの勝者であった。これからが勝負である。
AIの画像処理等を担う汎用機能は中国語、英語のプレーヤーが強いが、日本は産業としてどう使うかのステージで戦える。3歳児から攻殻機動隊やドラえもんに親しみ、妄想の英才教育をしているのが日本。「この国はスクラップ&ビルドでのし上がってきた。今度も立ち上がれる」(映画「シン・ゴジラ」より)はずである。
■ 日本の問題点
傍観していては、立ち上がれない。日本には、二つの問題がある。一つが、未来にかけられる国になっていないことである。国力に見合った研究開発投資ができていない。欧米のトップ大学と日本の大学では予算に雲泥の差があり、情報系の国立研究開発法人の予算も削られている。アメリカの大学を支えているのは運用基金である。国力増強に向けた国家運用基金が必要である。
日本の国家予算のPL(損益計算書)をみるとお金の使い方がおかしいことがわかる。お金がないわけではなく、シニア世代にお金を使いすぎている。国家の経営としてのリソース最適化を検討すべきである。
もう一つの問題は、人材像が刷新されていないことである。これからは妄想をカタチにする力が富に直結する。課題×技術×デザインをつなぎ、目に見えない価値を生み出さないとならない。アントレプレナーシップ教育も高校、学部から行うべきである。
データ×AIの文脈からみると、プログラミングだけでなく、数理素養やビジネス力、データエンジニアリング力を身につけ、実課題に対応することが必要だ。人が持つ必要がある技芸と定義されるリベラルアーツは、古典や歴史ではなく、STEAM(Science, Technology, Engineering, Art, Mathematics)そのものである。
今後は境界、応用領域の人材こそが重要になり複数専攻が必要になる。学部ごとに教授がいる日本の組織制度では境界領域人材が生まれない。横断型の学位プログラムに変えるべきである。
経済的な中心が数世紀ぶりにアジアに戻る千載一遇のチャンスを掴まねばならない。人工生命の研究からの気づきとして初期値、条件が同じであっても同じ進化は起きないことがわかっている。つまり、どういう未来を残したいか、つくりたいかが大事ということだ。
【産業技術本部】