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Action(活動) 週刊 経団連タイムス 2021年1月14日 No.3483 ミャンマー総選挙の結果と今後の展望等をめぐり議論 -日本ミャンマー経済委員会

工藤氏

経団連は12月16日、東京・大手町の経団連会館で日本ミャンマー経済委員会(小林健委員長、中村邦晴委員長)を開催し、政策研究大学院大学の工藤年博教授から、「2020年ミャンマー総選挙と第2次スー・チー政権の課題」をテーマに説明を聴くとともに意見交換を行った。説明の概要は次のとおり。

■ ミャンマーにおける民主選挙実施に至る経緯

国軍はミャンマー全国を席巻した民主化運動を弾圧し、1988年9月にクーデターで権力を掌握。この時、民主化運動のリーダーとして登場したのがアウン・サン・スー・チー氏であった。また、後に政権をとる国民民主連盟(NLD)が結成された。90年5月の軍政下初の総選挙では、スー・チー氏率いるNLDが圧勝した。国軍が権力移譲を考えていた国民統一党(NUP)が大敗したため、国軍は民政移管を拒否した。その理由は憲法がないためということであった。その後、制憲国民議会が設置され、2008年5月に国民投票で新憲法が制定された。08年憲法は国会両院の4分の1を軍人が占めるなど国軍の国政関与と国軍の自律を定めたものである。軍政はこの憲法のもとで、10年11月に2度目の総選挙を実施した。スー・チー氏が自宅軟禁下に置かれていたNLDは選挙をボイコットした。そのため、軍系の連邦団結発展党(USDP)が勝利した。これを受けて11年3月、民政に移管し、当時のテイン・セイン首相(将軍)が大統領に就任した。実質的な軍政の延長と思われたが、テイン・セイン大統領は意外にも改革開放政策を開始した。民主化・経済改革が進むなか、15年11月に1990年以来初の自由・公正な総選挙が実施されNLDが圧勝した。そして2020年11月に民主政権下で初めての総選挙が実施され、NLDが再び勝利した。

■ 20年総選挙におけるNLD勝利の背景

20年の総選挙の投票率は前回を上回る72%と、コロナ禍にあっても国民の関心の高さを示した。NLD政権は少数民族との和平や憲法改正などの15年の時の公約を実現できていないため、議席を減らすとの予想もあった。しかし結果は、NLDが両院476議席中396議席を獲得し、連邦議会で単独過半数に必要な322議席を大きく上回る圧勝となった。主な勝因として、(1)国民がNLD政権の継続による民主化の定着と改革の継続を望んだ(2)知名度の高い政権与党のNLDは、地元選挙区への利益誘導や動員を実施できたのに対し、コロナの影響で新政党の選挙活動は制約され浸透できなかった(3)NLDは地方でも、身近な行政サービス、インフラ整備、生活水準等の改善といった成果をあげた――などが挙げられる。

■ 第2次NLD政権の課題と日本企業への期待

NLDはこの5年間で安定政権の基盤を築いたが、(1)ロヒンギャや少数民族の問題(2)憲法改正(3)行政改革(4)経済成長の成果の公正な分配――など、課題は山積している。国軍系政党のUSDPを頼りにできなくなった国軍は、08年憲法を堅持しようとする。もしスー・チー氏が改革を急ぎ、国軍との対決姿勢を強めれば政治的に緊張することもあり得る。

第2次スー・チー政権では一層経済成長の実現に力点が置かれる見通しであり、特に電化率向上等のインフラ整備やビジネス環境改善、外国投資の誘致等が重要になる。ミャンマー経済を伝統的な農業中心のインフォーマルな閉鎖経済から、近代的で世界経済に統合された市場経済へと発展させるためには、政府の役割が重要である。ミャンマー政府の日本政府・経済界への信頼は厚く、電力等のインフラ整備を進めれば各種家電など巨大需要が見込まれる。協力できる余地は大きい。

【国際協力本部】

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