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Action(活動) 週刊 経団連タイムス 2021年2月25日 No.3489 アジア経済の展望 -中尾みずほ総研理事長が講演/アジア・大洋州地域委員会

中尾氏

経団連は2月5日、アジア・大洋州地域委員会(伊藤雅俊委員長、原典之委員長)をオンラインで開催し、アジア開発銀行前総裁で、みずほ総合研究所の中尾武彦理事長からアジア経済の展望をテーマに説明を聴くとともに意見交換を行った。説明の概要は次のとおり。

■ 「近代」を見直す5つの視点

世界は新型コロナウイルスに翻弄され、国際経済の背景にあった政治的・地政学的環境が変化している。そうしたなか、「近代」の進歩のあり方を技術進歩、人口、気候変動、政治経済、国際秩序の5つの視点から振り返ると、それぞれ、現代において、各国の努力に加え、国際協調が必要になってきている。ただし、国家間の協調が進展しても、納税者と選挙民を代表し、社会福祉や医療、教育を提供する主権国家が基本であることに変わりはない。また、リベラルな経済秩序、市場経済、そして、民主主義の重要性も不変である(※)

■ アジア開発銀行(ADB)総裁としての経験

任期中(2013年~20年)はアジア46カ国を歴訪し、各国首脳との対談等を通じて、一口にアジアといってもコーカサスから中央アジア、東アジアに至るまで、独自の歴史、文化、考えを持った多様な国々が存在することを強く認識した。当時のアジアは、世界金融危機以降も堅調に経済成長を遂げており、中国の経済的・地政学的な存在感が拡大してきた時代でもあった。また、デジタル技術がアジアにおいても重要な役割を果たすようになっている。

アジアの経済発展は市場志向政策の結果である。日本が外交、援助、貿易、直接投資、近代化・工業化のモデルを提供した貢献も大きかった。

■ アジア諸国のチャンスと課題

今後、アジアでは、人口増加と人口ボーナスが継続し、ミドルクラスの勃興と消費の拡大が期待される。グローバル・バリューチェーンへの統合がさらに進み、アジア発の技術革新の誕生や直接投資による相互関係の構築により、一層の成長が実現するだろう。

一方で、「中進国の罠」に陥らないためには、政治とマクロ経済の安定を維持したうえで、インフラ整備、高度人材の育成、研究開発に注力する必要がある。また、拡大する所得格差に適切に対応するとともに、持続可能な発展や気候変動対策の視点を取り入れていくことも重要になる。権威主義的なモデルではなく、市場を機能させるような政策を展開していかなければならない。

■ 中国の動向と今後のASEAN

ADBには、中国からも副総裁、理事、スタッフがおり、総じて優秀で一定の存在感を示している。ADBが中国へ貸付を継続することについてさまざまな意見があるが、プロジェクトを介してより近隣諸国にも便益が期待される環境や気候変動の分野に貸付を集中しているほか、中国とのハイレベル対話の継続や対外開放的な政策支援といった面でも意義がある。

中国が進める一帯一路政策については、経済性に疑問なしとせず、また、中国政府自体が中国の各機関が全体でどれだけそれぞれの途上国に貸しているのかすら把握しているのか定かでないなどの問題があり、今後の動向を注視する必要がある。

米中関係は新時代を迎え、バイデン政権へ移行しても両国の対立は続くだろう。ASEAN諸国のなかで、完全に中国の勢力圏に収まろうという国はないと理解している。日本は中国の文明から影響を受けてきたが、近代化や戦後の成長でこれまで中国に影響を与えてきた側面もあり、米国や欧州とは異なる独自の立場を活かすことが、今後はより重要になってくるだろう。

※「『近代』を見直す5つの視点」ほか中尾氏のコラムはみずほ総研ウェブサイトにて掲載
https://www.mizuho-ri.co.jp/service/research/column/chairman/index.html

【国際協力本部】

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