経団連、経団連事業サービス(中西宏明会長)は1月26日、「第124回経団連労使フォーラム」(2月4日号既報)をオンラインで開催し、慶應義塾大学の風神佐知子准教授の司会のもと、東日本旅客鉄道の冨田哲郎会長とコマツの大橋徹二会長が「ポストコロナを見据えた働き方改革の新たな取り組み」をテーマに鼎談を行った。冨田氏と大橋氏の発言の主な内容は次のとおり。
■ 冨田氏
新型コロナウイルスが終息したとしても、完全には元に戻らないと思われる。こうしたなか、新しい生活様式のニーズに対応したサービスの提供と働き方へのシフトが求められている。社員が自らの意思でキャリアを切り拓ける職場づくりでエンゲージメントを向上してアウトプットを最大化し、新しいサービスと価値を生み出していくことが、これからの企業経営の基本になる。そのために、挑戦の場を拡大し、仕事の幅を拡げ、ダイバーシティの推進に取り組んでいる。
第一に、「挑戦の場の拡大」として、「公募制異動」を実施している。異動先は、鉄道事業のみならず、生活サービスなどのグループ会社も含まれる。キャリアに関する多様な選択肢を提供することで、社員が自らキャリアアップを考え、将来を切り拓くことを促している。
また、鉄道事業は技術が非常に重要であることから、安全、車両、運輸、保線、電力等にかかわる構造、理論、根拠を、1年間現場業務から離れて本社で学ぶ機会(「技術アカデミー」)を提供している。
さらに、海外プロジェクトにも注力しており、現場の第一線で活躍する社員が、自社の技術やノウハウを現地の鉄道会社に伝えている。
第二に、「仕事の幅の拡大」については、異なる職場に勤務する社員同士がチームを組む「組織横断プロジェクト」を設け、それぞれの専門分野を超えて、沿線地域の活性化や課題解決に取り組んでいる。秋田の駅前開発プロジェクトは大きな成果を上げている。また、社員がさまざまな業務を経験できるよう、乗務員が乗務だけでなく、管理業務や支社の企画業務なども担当する「業務の融合」を積極的に進めている。
第三に、「ダイバーシティの推進」に関しては、介護や子育てなど、仕事をするうえで何らかの制約のある社員がいることを踏まえ、短時間勤務やフレックスタイム、テレワークを導入し、柔軟な働き方を可能にしている。
近年、鉄道会社の役割は大きく変わってきた。ヒトやモノを運ぶだけではなく、地域やまちを元気にする仕事が大きなウエートを占めるようになった。社員の自主性を引き出す職場づくりが、現場における小さな改革を生み出す。その積み重ねが会社を変革し、新しいサービスや価値創造につながると考えている。
■ 大橋氏
当社は、エンゲージメントの向上によりアウトプットを最大化する「働き方改革フェーズⅡ」を推進している。具体的には、2003年に策定した「強いコマツ(企業業績の向上・安定)」と「良いコマツ(人への投資)」を実現するという労使共通の認識のもと、生産性向上に資する活動として、賃金のみならず、安全・健康、働き方、ダイバーシティ、人材育成など、さまざまな課題について労使で年間を通じて議論している。
コロナ禍を踏まえた現場での取り組みとしては、まず「絶対に社員とその家族を守る」という経営トップの強いメッセージを発信し、感染予防の施策を積極的に講じている。具体的には、マスク着用や手洗い、工具の消毒など、衛生対応の徹底はもとより、通勤時における公共交通機関利用者の自動車相乗り出勤へのシフトや、現場の各班を2チームに分け、休憩時間を含め、相互の接触を抑制している。また、在庫は少し余裕をもって積み増しておくことで、生産停止のリスクに備えている。
さらに、万が一感染した場合の影響を最小限にするため、1人の作業者が複数の作業をこなせるように多能工化を進めている。
ICTを活用した働き方改革にも注力している。生産・調達部門の改革として、自社工場のみならず、サプライヤーやパートナーの主要な機械設備もネットワークに繫ぎ、稼働状況をリアルタイムで把握している(KOM-MICS)。これにより、不具合や品質の状況、ボトルネック工程など、リアルタイムで把握できるようになり、いざというときに対策を講じやすくなった。省人化、品質向上、リードタイム短縮を実現し、生産性は2倍になった。
オフィスにおける取り組みとしては、在宅勤務の適用拡大と積極的な活用により、今年1月時点での本社の出勤率を15%程度に抑えている。在宅勤務は、14年に育児・介護・私傷病等制約がある社員の「キャリア継続」のための制度としてスタートしたが、昨年2月末以降、新型コロナ感染拡大防止のため在宅勤務を暫定的に拡大した。その後、通年の労使協議を経て、昨年8月1日に従来の「キャリア継続」に「生産性向上」「事業継続」の観点も加え適用範囲の拡大を正式に実施した。
人事賃金制度も見直している。今年4月からは選択定年制を導入する。また、一般社員については、習熟度などに応じて能力開発段階と能力発揮段階の2つに分ける処遇体系に見直す。緊密なコミュニケーションを前提とした目標管理制度により、成果だけではなくプロセスもしっかり評価することで、社員の納得感を高め、メリハリのある処遇を実現していく。
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