6月11~13日に英国・コーンウォールで開催されたG7サミットにおける大きな柱の1つが気候変動・環境問題であった。サミット議長国である英国は今年11月のCOP26の議長国でもあり、COP26に向けて、まずG7で前向きなメッセージを出していこうという明確な戦略を持っていた。5月時点でG7諸国はすべて2050年ネット・ゼロエミッション目標を表明しており、それと整合的なかたちで30年目標の引き上げも表明していた。英国政府の意図はこれをピン止めし、G20プロセスの議長国であるイタリアと連携しながら、G20レベルでのカーボンニュートラルに向け、前向きなメッセージを出そうということであろう。
サミット宣言文の気候変動関連部分の骨子は以下のとおりである。
- 遅くとも50年までのネット・ゼロ目標および各国がそれに沿って引き上げた30年目標にコミット
- 国内電力システムを30年代に最大限脱炭素化
- 国際的な炭素密度の高い化石燃料エネルギーに対する政府による新規の直接支援を、限られた例外を除き、可能な限り早期にフェーズアウト
- 国内的に、NDC(30年の中期目標)およびネット・ゼロのコミットメントと整合的なかたちで、排出削減対策が講じられていない石炭火力発電からの移行をさらに加速させる技術や政策の急速な拡大
- 排出削減対策が講じられていない石炭火力発電への政府による新規の国際的な直接支援を年内に終了することにコミット
- 途上国支援のため、25年までの国際的な公的気候資金全体の増加および改善に各国がコミット
特に大きな問題になったのが国内における石炭利用、海外に対する石炭火力関連支援の2つであった。議長国英国はG7レベルで30年に石炭火力をフェーズアウトすることを強く主張したが、これには米国、ドイツ、日本が難色を示した。環境重視のバイデン政権ではあるが、上院が50対50という薄氷状態にあるなかで、産炭州であるウェストバージニア出身のマンチン上院議員の意向に配慮しなければならない。ドイツは38年国内石炭火力フェーズアウトを決めたばかりである。日本は原子力発電に替わって安価で安定的なベースロード電力を供給してきた石炭火力をすぐに全廃にはできない。国内電力システムの最大限脱炭素化について、「2030年代」という表現になったのはそれが理由である。他方、海外に対する石炭火力輸出については日本が孤立し、排出削減対策(CCUS)が講じられていない石炭火力への直接支援を年内に終了することとされ、昨年7月に梶山弘志経済産業大臣が打ち出した石炭火力輸出の厳格化方針を上回るものとなった。トランプ政権時代は気候変動に関して米国と米国以外の6カ国で宣言文のパラグラフを分けるなど、分断が目立ったが、バイデン政権誕生により様相は大きく変わり、日本が厳しい立場に置かれることとなった。
しかし、G7は世界の排出量の25%を占めるにすぎず、温暖化防止の帰趨を握る中国、インドを含め、世界の排出量の8割を占めるG20において同種の野心的メッセージが出される可能性は低い。G7が石炭火力輸出をやめたとしても中国は一帯一路で大量の石炭火力輸出を行っている。欧米諸国が環境原理主義的理念のもとに50年カーボンニュートラルをG20レベルでも遮二無二押した場合、かえって先進国と途上国の分断を生み、台湾、香港、ウイグル等で厳しい視線を浴びている中国が漁夫の利を得る可能性もある。7月22~23日にイタリア・ナポリで開催されたG20環境・気候・エネルギー大臣会合では議長国イタリアがG7の成果を梃子に石炭フェーズアウトや50年カーボンニュートラルを盛り込もうとしたが、案の定、中国、インド等の強い抵抗により、野心的な文言の合意に失敗した。世界が温暖化だけで回っていると考えるのは環境原理主義の愚かな誤りである。
【21世紀政策研究所】