経団連は9月29日、経済財政委員会(柄澤康喜委員長、永井浩二委員長)をオンラインで開催し、BNPパリバ証券の河野龍太郎チーフエコノミストから、日本経済の長期低迷の要因と今後の課題について説明を聴くとともに懇談した。説明の概要は次のとおり。
■ 企業の慎重な行動が長期停滞をもたらす
日本の潜在成長率は2000年代以降、1%を大きく割り込んだまま低迷している。10年代は、収益性の低下や生産性の低い労働に代替され、資本投入はマイナスになった。技術進歩などを示す全要素生産性(TFP)上昇率も低下している。失業率が大幅に改善し、完全雇用に到達した後も、政府や日銀は、追加財政や超金融緩和を続け、資源配分に大きな歪みが生じている。
企業は繰り返す危機を背景に、貯蓄超過を継続しており、無形資産投資や有形資産投資、人的資本への投資を抑制したままである。また、古いビジネスモデルのまま海外経済への依存を高め、国内の新たな需要創出ができていない。
わが国の非正規雇用はグローバル競争の激化を背景に、今や雇用全体の4割近くに達している。非正規雇用が増加したのは、政府が00年代に社会保障給付を賄うため社会保険料を引き上げ続けたことも影響している。非正規雇用は、好況期に賃金が上がっても、不況期に備え貯蓄するため、消費が回復しない。
その結果、完全雇用になっても消費が低迷し、企業は低い成長期待を背景にコストカットを続ける。企業部門の貯蓄超過は解消されず、自然利子率と潜在成長率の低迷が続く。
以上が日本経済の長期停滞の真因であろう。
■ イノベーション創出と財政健全化に向けて
日本企業は他国と比べ、マークアップ率や収益性が低く、プロダクト・イノベーションが乏しい。その一因として、経営者が雇用リストラや事業売却を避ける傾向が挙げられる。経営者が雇用維持の責任を負ったままでは、イノベーションは進まない。例えば、グリーン成長戦略は産業構造の転換が不可欠であり、これと整合的な労働政策は、雇用調整助成金のように、企業に雇用保蔵を求める制度ではない。北欧のような積極的労働市場政策に転換する必要がある。
財政健全化がこれまで失敗してきたのは、高い経済成長率見通しを前提とし、税収増を見込み、歳出削減努力を怠ってきたことが要因である。他の先進国と同様、日本においても、独立した中立機関による長期の財政見通しを示していくべきである。
経済格差の時代には、資本課税が本来必要である。資本所得課税と労働所得課税の性質を持つ消費増税を行うと同時に、逆進性対策ともなる社会保険料の引き下げを行うと、実質的に資本課税を強化することができる。その際は、被用者保険の適用範囲を拡大する必要もある。0.5%弱の低い潜在成長率を考慮すると、消費税率は、2~3年に一度、0.5%引き上げる程度にとどめるのが妥当と考える。
【経済政策本部】