Action(活動) 週刊 経団連タイムス 2021年11月11日 No.3521  核融合エネルギーに関する講演会を開催 -栗原量子科学技術研究開発機構量子エネルギー部門長、大前ITER機構首席戦略官に聴く

経団連は10月18日、核融合エネルギーに関する講演会をオンラインで開催し、量子科学技術研究開発機構の栗原研一量子エネルギー部門長とITER機構の大前敬祥首席戦略官から、核融合エネルギーにかかる研究開発の現状と今後の見通しについて説明を聴いた。概要は次のとおり。

■ 研究開発の動向と今後の見通し(栗原氏)

栗原氏

  1. (1)核融合の仕組みと安全性
    核融合は、超高温プラズマ状態の重水素と三重水素の原子核を融合させ膨大なエネルギーを発生させるものである。核融合発電を最初に実現する方法は、国際熱核融合実験炉「ITER」でも採用されているトカマク方式(磁場によるプラズマの閉じ込め方式の1つ)と考えられている。
    核融合は、核分裂のような連鎖反応ではなく単独反応であるため、反応を容易に停止できるほか、高レベル放射性廃棄物のような取り扱いを要する廃棄物は出ない。また、燃料となる三重水素ガスの閉じ込め技術もすでに確立されており、安全性が極めて高い。

  2. (2)ITER計画と日本の貢献
    ITERは、日・欧・米・露・印・中・韓の7極で進行中の国際プロジェクトであり、2025年に初のプラズマ着火を目指している。
    核融合について早期に研究体制を構築した日本は、電気・鉄鋼や金属材料・原子力の製造技術基盤に優位性があり、世界の研究開発をリードしている。また、日本企業も、ITERで求められるさまざまな高度先端機器を製作するなど、極めて大きな役割を果たしている。

  3. (3)BA活動
    ITER計画を支援・補完するために、日欧共同でBA(幅広いアプローチ)活動を行っている。高圧力プラズマ試験を行う大型実験装置JT-60SA計画、ITERにおいて熱の取り出しと燃料増殖を行うブランケットの開発、将来的な発電を見据えた原型炉設計など取り組みは多岐にわたる。とりわけ、原型炉設計については、オールジャパン体制で取り組んでおり、プラント概念の基本設計はすでに終了した。今後、ITERの運転動向を踏まえ、日本として原型炉への移行を判断する。

  4. (4)世界の開発状況と今後の見通し
    現在、ITER計画は極めて順調に推移している。あわせて、昨今のエネルギー・気候変動問題を契機として、欧米や中国等の諸外国は、発電炉開発をはじめ、核融合に関する意欲的な目標を打ち出している。すでに国際競争の様相を呈し始めており、わが国としても、原型炉の開発を含め、引き続き、産学官一体となったオールジャパン体制で取り組んでいく必要がある。

■ ITER計画の進捗(大前氏)

大前氏

ITER機構は、ITER協定に基づく「プロジェクト型」の国際機関であり、建設・実験から解体に至るまでの時限的な機関である。現在、初期運転開始に向けて75%まで工程が進捗しており、主要な建屋・施設はほぼ完成している。空地となっている土地は、制御棟や実燃料運転に向けて必要となるホットセル施設(放射性物質を取り扱うために遮蔽を施した区画)の建設予定場所となっている。

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説明の後、大前氏により、最新の現地画像を用いたITERサイトを活用して、建設地の状況や設備の構造・仕組みなどをめぐるバーチャルツアーが行われた。

【環境エネルギー本部】