経団連は2月3日、「職場のハラスメント防止セミナー」をオンラインで開催した。企業の人事・労務担当者ら約400人が参加した。概要は次のとおり。
■ 事例紹介「職場のハラスメント防止の取り組み」
職場のハラスメント防止に関して、凸版印刷および花王が、それぞれ自社の事例を紹介した。
奥村英雄凸版印刷執行役員人事労政本部長は、(1)労使が協力して取り組む重要性を踏まえ、2020年にハラスメント防止に関する労使協定を締結し、部下がハラスメントを受けている事実を認めながら黙認する行為も禁止している(2)人間尊重の企業理念を具体的な行動に結び付けるべく、心理的安全性が高く風通しのよい職場づくりに向けた行動を人事評価基準に盛り込んでいる――などと説明した。
尾崎博幸花王法務部門コンプライアンス推進部長は、(1)社内外の通報・相談窓口の役割や匿名相談があった場合の対応(2)各部門の人事関係窓口にコンプライアンスに関する相談があった場合の連携(3)マネジメントラインでの解決の重要性と解決できない場合の通報・相談窓口の活用のルール化――など、相談対応に関する具体的な取り組みを紹介。あわせて、経営トップからの強いメッセージ発信が効果的である旨を述べた。
■ 講演「ハラスメント調査・対応の実務」
続いて、第一芙蓉法律事務所の小鍛冶広道弁護士が「ハラスメント調査・対応の実務」をテーマに講演した。
(1)相談窓口の周知・設置
相談窓口を広く利用してもらうことは、外部拡散によるレピュテーションリスクの顕在化を防止でき、企業価値を守ることとなる。事業規模が大きければ相談ルートの複線化や相談受付方法の多様化も検討に値する。男女の相談員を設けて、相談受付メールアドレスを区別することも有益である。ただし、窓口を増やすことを優先して、窓口担当者として必要な教育を怠るとマイナスに作用する。相談窓口を社内イントラネットで周知している場合、有期雇用等労働者が閲覧できないという例もあるので、注意が必要である。
(2)通報受付時の初動対応
供述時を含め、相談者の態様を観察することが大事であり、詳細は直接面会して聴くことが基本である。メンタルヘルス不調者の場合は、(1)ヒアリングによる症状増悪の可能性等について、主治医や産業医への確認(2)本人の体調を考慮したウェブ面会の検討(3)自宅付近で面会する場合のプライバシー確保――が必要である。
派遣労働者からの相談や苦情について、派遣先は、その申し出等を受けた都度、派遣先管理台帳に、申し出を受けた年月日、内容や処理状況を記載し、派遣元に通知しなければならない。この点を見落としがちであるので、注意が必要である。
(3)相談者、行為者、第三者ヒアリング
相談者へのヒアリングの基本は、複数名で対応すること、相談者の上司を同席させないことである。親や配偶者の同席の要望があった場合、認める義務はないが、できる限り柔軟に対応する。重大なハラスメント事案ほど、懲戒処分の有効性をめぐる裁判等で、証人の協力を得られない可能性があるため、ヒアリング内容の記録が重要である。相談者が行為者や第三者へのヒアリングに同意しない場合は、ハラスメントに関する職場アンケートの実施も考えられる。
企業内で解決するためには、相談者と行為者双方の納得感を得ること、言い分を丁寧に傾聴することが重要である。
(4)事実認定と認定事実に基づく対応
調査結果からどのような事実が認定できるか検討し、認定した事実に基づいて対処することが基本である。事実認定後、行為者が納得していない状態で直接謝罪させることは、謝罪態度が悪いといって紛争が激化してしまうなど、逆効果となる場合があるため注意が必要である。相談者が主張するハラスメントの事実が認定できなかった場合、「事実として認定するだけの証拠を収集するには至らなかった」などとフィードバックをすることが適当である。
【労働法制本部】