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Action(活動) 週刊 経団連タイムス 2023年11月9日 No.3612 女性理工系人材の育成・活躍に向けた取り組みと課題 -教育・大学改革推進委員会企画部会

経団連は10月5日、東京・大手町の経団連会館で教育・大学改革推進委員会企画部会(平松浩樹部会長)を開催した。女性理工系人材の育成・活躍をテーマに、東京大学国際高等研究所カブリ数物連携宇宙研究機構副機構長の横山広美教授、お茶の水女子大学理事・副学長・理系女性育成啓発研究所長の加藤美砂子教授、ダイキン工業人事本部の石山倫子課長、山田進太郎D&I財団の大洲早生李調査・政策提言/マーケティング・広報責任者から、それぞれ説明を聴くとともに意見交換した。説明の概要は次のとおり。

■ 理系に女性はなぜ少ないのか(横山氏)

日本は15歳時点の数学の成績が男女ともに世界トップレベルにもかかわらず、大学進学者に占める女性の割合や理系分野に進学する女性の割合が経済協力開発機構(OECD)加盟国中最低である。

この原因として、能力や学問分野に対するジェンダーイメージが挙げられる。日本では、数学・物理学に必要な能力として認知されている論理的思考力や計算能力は男性的であると認識されている。数学・物理学の男性イメージを分析した研究では、数学や物理を学んだ後の職業イメージが男性的であることが要因として最も大きく、その次に大きかったのは、数学ができるのは男性であるという思い込みであった。また、日本では、女性が知的であることに否定的な認識を持つ個人ほど、数学・物理学は男性のものというイメージを持っている。

子どもの理系選択において、母親の影響が大きいといわれているが、娘が理系進学を希望した場合、多くの親が理系進学に賛成するという調査結果もある。問題は、中学時代に物理を嫌いになる女子が多いことである。中学時代に物理を嫌いになると、高校で物理を選択せず、理系に進学しづらくなる。物理の教え方等を工夫すべきである。

日本で理系人材を増やすためには、ジェンダー平等の実現とともに、女子生徒が理系に興味を持ち、理系分野に進学する環境の整備が必要である。

■ 女性理工系人材の育成・活躍に向けた取り組み(加藤氏)

お茶の水女子大学は、2022年4月に理系女性育成啓発研究所を設置した。同研究所では、女子生徒の理工系分野への興味を促すとともに、女子生徒の進路選択に大きな影響を与える保護者・教員に対して、理工系分野への進路選択に関する理解促進に向けた活動を展開している。

科学技術振興機構「女子中高生の理系進路選択支援プログラム」に採択された女子中高生向けの啓発事業では、(1)進路選択を意識していない女子中学生を対象に理系への興味をもたせるための「シーズ発掘プログラム」(2)理系への関心が芽生えた層を対象に理系進学へのモチベーション増大を図るための「育成プログラム」(3)理系進学を決めている層を対象に理系分野のなかからより興味のある分野を選択するための「強化プログラム」――をそれぞれ実施している。それとともに、同研究所は、中学校で出前セミナーを実施し、理系に興味がない生徒にもアプローチする一方、理系で学んだ後のキャリアパスを考える機会も提供している。追跡調査によると、同プログラムは参加者の理系への進路決定に影響しているため、今後も継続的に取り組んでいく。

■ ダイキン工業の事例(石山氏)

当社は、25年度末までに、女性役員を1人以上(23年10月時点1人、達成済み)、女性基幹職を120人(23年10月時点106人)とする目標を掲げている。目標達成に向けた一連の施策として、(1)技術系女性の採用力の強化(2)大阪大学との連携事業――に取り組んでいる。前者は、セミナー等に参加し理工系女子学生との接点を増やすことで、優秀な人材の採用につなげている。後者は、大阪大学と連携して、(1)女性社員と大阪大学の女子学生を対象とした「女性エンジニアリーダー育成プログラム」(2)育休中の社員が大阪大学の講座を聴講し、スキルアップを図る「育休中キャリアアップ支援プログラム」(3)女子高校生・大学生に理系進学・就職を促すためのイベント――を実施してきた。多くの大学が企業と連携し、企業で活躍する女性理工系人材を育成できるとよい。

■ 山田進太郎D&I財団
「STEM(理系)分野に進学する女子学生の増加に関する調査」(大洲氏)

当財団は、35年にSTEM分野の大学入学女性比率をOECD平均並みの28%とすることを目標に掲げて、「STEM(理系)女子奨学助成金」や調査・政策提言などのエコシステム形成事業を実施している。当財団の調査によると、女子の文理選択に「理系進学・就職にメリットを感じること」が大きく影響していた。女子が理系進学・就職にポジティブなイメージを持つために、職業体験の実施や、理系女性コミュニティーを通じたプラスの影響をもたらす理系ロールモデルの提示など、産学官一体でエコシステムを構築する必要がある。職場体験の実施にあたっては、女性の少ない職種を女子に提供し、STEM分野への進学者の増加に貢献したドイツの「Girls' Day」が参考になる。

【SDGs本部】

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