1. トップ
  2. Action(活動)
  3. 週刊 経団連タイムス
  4. 2023年11月9日 No.3612
  5. 米国の政治情勢と米中関係

Action(活動) 週刊 経団連タイムス 2023年11月9日 No.3612 米国の政治情勢と米中関係 -アメリカ委員会連携強化部会

カトラー氏

パーべン氏

経団連のアメリカ委員会連携強化部会(豊川由里亜部会長)は10月20日、ウェンディ・カトラー アジア・ソサエティー政策研究所(ASPI)副所長・Akin法律事務所シニア・ポリシー・コンサルタントとスコット・パーベン Akin法律事務所パートナーの来日の機会をとらえ、東京・大手町の経団連会館で懇談会を開催した。両氏による説明の概要は次のとおり。

■ 米国内の政治情勢

世界情勢が混乱を極めるなかにあっても、米国内の共和党・民主党の溝は深い。共和党は、穏健派不在のナショナリズムの政党に成り下がり、民主党との協力を模索しない。共和党内にはウクライナ支援の規模縮小を望む声もある。トランプ前大統領が、ウクライナ侵略は欧州の問題だと明言して以降、共和党支持層にこの考えが浸透してしまった。トランプ氏が起訴された後も、「ルールを守らない強い男」と評価する層が一定数おり、支持の獲得力は衰えていない。他の共和党大統領候補も、トランプ支持者を取り込みたい思惑から、表立ってトランプ氏を非難しない。

一方、バイデン大統領は、トランプ氏が大統領になった場合に、民主主義や同盟国へ負の影響が及ぶことを懸念している。このため、2024年大統領選挙でトランプ氏が共和党候補になる場合、再出馬する可能性が高い。バイデン大統領の支持基盤は労働組合とマイノリティーグループ等であり、これらの層を意識した政策が、24年の大統領選挙まで継続されるだろう。

■ 米中関係とIPEF

米中両政府は関係安定化に向けて努力している。11月のアジア太平洋経済協力(APEC)首脳会議の際には、習近平国家主席が訪米し、米中首脳会談が実現する見込みである。米中間のフライトやビザ発給数の増加等、若干の成果が発表される可能性はある。

また、米通商代表部(USTR)は、トランプ政権時代から継続する通商法301条に基づく中国原産品への追加関税について、現在パブリックコメントを実施している。寄せられた意見内容はさまざまだが、従来と同レベルの規制を全体としては維持しつつ、戦略的に関税のあり方を検討すべきとの主張がある。つまり、サプライチェーン構築にあたり重要な品目や、米国内で製造すべき最終製品の輸入原材料に対して高関税が賦課されている場合等に、米国の戦略的かつ商業的な利益に合致するよう、適切に関税率を調整すべきとの意見である。ホワイトハウスがこれに同意するかは未知数だ。同追加関税にかかる見直しは年内に完了予定だが、長引く可能性もある。

インド太平洋経済枠組み(IPEF)については、サプライチェーン分野の交渉は完了したが、貿易分野での合意形成は困難だろう。米国が労働や環境について高い協定水準を要求しており議論がまとまらない。加えて、デジタルについて、米国内で、自由な越境データフロー、ソースコード開示要求の禁止等を盛り込むべきでないとの意見が出ている。これらは従来米国が重視してきた要素だが、巨大IT企業を利する内容であり、消費者寄りの規制の導入を阻みかねないとの主張がある。一方で、貿易円滑化や貿易の技術的障害などに関する良き規制慣行など、比較的合意しやすい分野もある。また、脱炭素や税・汚職の分野でIPEFの交渉は進展している。これらの点について、APEC首脳会議で成果が発表されることを期待したい。

【国際経済本部】

「2023年11月9日 No.3612」一覧はこちら