経団連は4月16日、東京・大手町の経団連会館でイノベーション委員会ヘルステック戦略検討会を開催した。グリーンバーグ・トラウリグ法律事務所のロ・チア・フィン弁護士から、米国のバイオ・ライフサイエンスに関する政策動向について説明を聴いた。概要は次のとおり。
■ 政策形成手段と考慮すべきこと
米国での政策形成手段は、連邦政府・連邦議会・各州政府によるものに大別される。政策形成への関与や規制当局の説得を企図するのであれば、政策形成手段の枠組みに加え、次の三つの要素を考慮することが重要である。
第一に、米国において国家安全保障が非常に重視されており、通商政策や企業への補助に大きな影響をもたらしている。第二に、貧富の差が広がるなか、草の根の不満が政策に与える影響も重大である。第三に、民主党・共和党共に政府の役割を拡大させる方向での活動が増えてきていることに注意すべきである。
11月の米国大統領選挙の結果により、政策全てが変わることはない。影響を受け得ることが何かを見定めることが重要である。
■ 細胞遺伝子治療
細胞遺伝子治療は一度の処置で病気を治癒させるという特性を持っており、非常に大きな影響を社会に与え得る。この特性故に、細胞遺伝子治療に用いられる再生治療用製品等は従来の治療と比べて高額となる可能性がある。
米国は戦略的視点からグローバルスタンダードを作ろうとしている。新たな価格モデルの構築が検討されているが、このモデルは細胞遺伝子治療による価値を踏まえたものになるだろう。日本ではiPS細胞の研究が進んでいるため、日本基準をグローバルスタンダードにするということも考えられる。
■ サプライチェーン
サプライチェーンは国家安全保障の観点から米国において特に重視されている。緊張関係にある国の企業がサプライチェーンを構成することは好ましくないとされる。サプライチェーン面についても手当てしているバイオセキュリティ法の施行によって株価に影響が出た企業も存在する。
現在、日本企業のバイオ領域におけるサプライチェーン面での存在感は高くはないもののチャンスはある。リソースを集中投下し、技術開発できるかが肝といえよう。
■ AI
近年、米国において多くのイノベーションは政府主導で生み出されたものが多い一方、AIは民間主導で開発が進んでおり、ヨーロッパに比べ規制面での検討が受け身になっているといえる。
デジタルヘルスについても米国食品医薬品局(FDA)の審査を受けることになるが、FDAはAIが中核となっているものに対しては慎重な対応を取り得る。
日本企業が米国企業に追い付きたいのであれば、米国市場への上市を考慮したうえで、早い段階からルール形成に関与する必要がある。
【産業技術本部】