経団連は4月24日、東京・大手町の経団連会館で環境委員会地球環境部会国際環境戦略ワーキング・グループ(手塚宏之座長)を開催した。米国のシンクタンクであるコペンハーゲン・コンセンサスセンターのビョルン・ロンボルグ所長から、「How to Think Smarter on Climate」と題し、費用便益分析を踏まえた「スマート(賢明)」な気候変動対策のあり方について説明を聴いた。概要は次のとおり。
■ 世界は良くなっている
人類の平均寿命は、1820年の29歳から2023年の73歳まで、過去200年間で3倍近くに延びた。国際貧困ライン(現在は1日2.15ドル)未満で暮らす極度の貧困層の割合も、過去200年間で90%から10%未満にまで低下している。
悪化していると思われがちな環境問題も、実際は大きく改善している。例えば100年前は、調理や暖房に薪をたいていたため、屋内での空気汚染が深刻であった。今や「屋内の空気汚染」という概念自体、先進国ではあまりなじみがなくなっている。
■ 気候変動は「世界の終わり」ではない
洪水や干ばつといった気候関連の死者数は、100年前、世界全体で年間50万人に達していた。その後の大幅な人口増にもかかわらず、現在の死者数は年間約1万5000人である。
気候関連死のリスクが劇的に下がった背景には、社会が豊かになり、技術を得て、災害予測等の形で問題への対処が可能になったからである。もちろん、気候変動問題がなければ死者数はさらに少なかっただろうが、その影響をはるかに上回るリスク削減が実現している。飢餓やマラリアによる死者数にも同じことがいえる。
また、国連の中位推計によれば、世界の平均所得は、2100年に現在の450%にまで増加する見込みである。ノーベル経済学賞受賞者のウィリアム・ノードハウス氏の試算によれば、気候変動の影響を考慮すると、この伸びが434%に抑えられるという。これは確かに問題だが、今世紀末までに大幅に豊かになることに変わりはない。気候変動は実在する課題だが、決して世界の終わりではない。
■ スマートな気候変動対策のあり方
気候変動によるコストは確かにあるが、気候変動「対策」のコストにも留意すべきである。米国のコンサルティング会社の試算によれば、世界でネットゼロ(温室効果ガスの排出と吸収のバランス)を達成するための対策には、年間5.6兆ドルのコストがかかる。これは、世界のGDPの5.4%、総税収の3分1超にあたる。世界の有権者には到底受け入れられないだろう。
別の試算によれば、2050年にネットゼロを達成するためのコストは、年間25.5兆ドルにのぼる一方、達成による便益は年間4.2兆ドルと、コストが便益を大きく上回っている。
費用対効果に最も優れる気候変動対策は、グリーンエネルギーの研究開発である。他の対策の数分の1のコストで大きな成果を期待できる。とりわけ、国民が厳しい生活を強いられている途上国では、エネルギー価格の高騰や産業の衰退をもたらす対策は受け入れられない。イノベーションによってグリーンエネルギーを促進することが、全ての国にとってのスマートな解決策となる。
【環境エネルギー本部】