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Action(活動) 週刊 経団連タイムス 2024年6月13日 No.3640 人口戦略と地方自治~人口減少危機を突破するために -地域経済活性化委員会

阿部氏

経団連は5月17日、都内で地域経済活性化委員会(永井浩二委員長、小林哲也委員長、月岡隆委員長)を開催した。全国知事会で国民運動本部長を務める阿部守一長野県知事から、少子化・人口減少が進むなかでの人口戦略や地方自治の課題について聴いた。概要は次のとおり。

■ わが国の最重要課題である急激な人口減少

わが国の総人口は2008年をピーク(1億2808万人)に、70年には8700万人にまで減少すると見込まれている。また、出生数は16年に100万人を割り込み、合計特殊出生率も22年当時で過去最低の1.26を記録した。

このような急激な少子化・人口減少等は、社会インフラや医療、教育、行政サービス等の基盤の脆弱化、経済活動の縮小、各分野における担い手不足、高齢者の増加に伴う医療費や保険料の負担増等、経済・社会に大きな影響を与える。

そこで、私もメンバーとして参画した人口戦略会議では、24年1月に「人口ビジョン2100」を公表した。同ビジョンでは、現在より小さな人口規模でも豊かな社会を構築するための「強靭化戦略(多様性に富んだ成長力ある社会の構築)」と、人口減少のスピードを緩和させ人口を安定化させるための「定常化戦略(人口の定常化)」が必要と提言した。長野県でも同ビジョンの考え方に準じた形で、少子化・人口減少対策の戦略方針を策定しているところである。

少子化・人口減少対策は、働き方などの社会規範をめぐる課題や個人の価値観と関わることから、国民的な議論が急務である。その際に重要なのは国民の意識変革であり、国全体で問題意識を共有し、官民挙げて取り組むための「総合的な国家ビジョン」が必要である。

■ 効果的な人口政策に向けた改革の方向性

人口政策を効果的に推進するためには、大きく二つの取り組みが不可欠である。

一つ目は、「中央政府と地方公共団体との関係性の改革」である。例えば、子どもの医療費助成は地方公共団体が負担しており、支援内容も団体間で異なる。住む場所によって子育ての制度が異なるのは不自然であり、国の責任と財源による全国一律の制度が望ましい。他方、保育サービスは全国一律に基準や制度が定められているため、地域の実情に応じたサービスを提供できていない。今後は、法令の統合や税財源の分権化等によって現在の統治システム(集権・融合型)の改革を進め、各地方公共団体が創意工夫を凝らし、主体的に地域経営を担うことのできる関係性を構築することが求められる。

二つ目は、「東京一極集中の是正」に向けた改革である。東京都をはじめ首都圏に大学や企業が集中し、就学・就職時に地方から多くの若者が転入する一方で、東京圏の合計特殊出生率は低い。このように人が集まるが人口が増えていかない地域の問題や、諸機能・施設が集中することのリスクを回避するためにも、東京一極集中の是正に向けて、中央政府、地方公共団体の政策と企業のアクションの双方が必要である。

引き続き、経済界と問題意識を共有し、人口戦略と地方自治の改革に取り組みたいと考えており、協力をお願いしたい。

【産業政策本部】

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