
越塚氏
経団連は2024年10月、企業・業界・国境の垣根を越えてデータ連携を円滑化する仕組み「産業データスペース」の構築に向けた提言「産業データスペースの構築に向けて」を公表し、官民が取り組むべき方向性を示した。
現在、日本国内では各省庁や団体が個別にデータ連携・利活用の取り組みを進めているが、それらが十分に連携しているとはいえない。また、国際連携や必要な機能要件に関する統一見解も、いまだ確立されていないのが現状である。
こうした課題を踏まえ、経団連は4月16日、東京・大手町の経団連会館で、デジタルエコノミー推進委員会(東原敏昭委員長、篠原弘道委員長、井阪隆一委員長)を開催した。東京大学大学院情報学環・学際情報学府の越塚登教授から、「わが国におけるデジタルエコシステムのあり方」をテーマに、国内外のデータ連携・利活用を巡る動向や課題について説明を聴いた。概要は次のとおり。
■ 政府への期待
現在、わが国において、データスペースの構築に向けた検討が本格化しつつあること自体は、歓迎すべき動きである。しかし、国全体のデータ戦略を統括する司令塔機能が存在しない。このため、これまで数多くの施策が策定されてきたにもかかわらず、各所の取り組みとの連携が十分に取れておらず、全体最適には至っていない。結果として、日本は信頼性のあるデータを膨大に保有していながら、それを最大限活用できていない状況にある。こうした課題を解決するため、国のデータ戦略に関する司令塔を設置し、その体制を早急に強化する必要がある。
また、わが国におけるデータ基盤への政府による投資額は著しく少ない。EUでは数千億円規模の公的支援が実施されているのに対し、日本では2桁少ない規模にとどまっている。データスペースは、社会全体の基盤となる「デジタル公共財」であることから、強力な財政的支援が不可欠である。
さらに、業界・国境を越えて安心かつ円滑にデータを流通させるためには、信頼性を担保する「トラスト基盤」の整備が必要であり、これについても政府が主体的に取り組むべきである。
■ 民間・アカデミアへの期待
日本はデジタル分野における技術基盤に強みを有しており、これを最大限に活用していくことが重要である。他方で、若年層を含めた人材育成やコミュニティの拡大には課題が残る。特に、学生の関心はもっぱらAIに集中しており、データを「つくる」領域への関心や教育は相対的に手薄である。今後は、データの全体的なライフサイクルを担う人材の育成に向けて、若い世代の巻き込みが不可欠となる。
また、デジタル領域におけるエコシステムとビジネスモデルにも再考の余地がある。これまでは、プラットフォーマーがデータ提供者と利用者との間に介在し、そこに利益が集中する構造が形成されてきた。しかし、この構造は産業界全体の発展にとって望ましいものとはいえない。データスペースの考え方では、付加価値はデータの提供者と利用者に帰属すべきであり、プラットフォームはいわば「土管」として機能することが基本となる。
さらに、データスペースとAIの連携も重要である。例えば、生成AIが持つ汎用的な知識と、産業のリアルタイムなデータや状況文脈(コンテキスト)を持つデータを結び付けることで、新たな価値を創出することが可能となる。
【産業技術本部】