
ガルノー氏
経団連は4月24日、東京・大手町の経団連会館で、中国委員会企画部会(鈴木健史部会長)を開催した。米中政治政策の分析調査やコンサルティングを行う、ガルノーグローバルの共同創業者であるジョン・ガルノー氏から、米中情勢や台湾問題などについて説明を聴くとともに意見交換した。説明の概要は次のとおり。
■ 米中関係の現在地とトランプ政権の影響
かつては中国進出のリスクへの懸念は限定的であったが、近年は状況が大きく変化している。第1次トランプ政権時(2017~21年)は、米中両政府とも過度な競争や挑発を意図的に回避しつつ、リスクを慎重に管理するという「秩序あるデカップリング」の時代であった。しかし今般、第2次トランプ政権が対中関税を大幅に引き上げ、中国がこれに報復したことで、世界は不確実で予見不可能な「秩序なきデカップリング」の時代へと突入した。
習近平国家主席は中国共産党による国家統制の強化を推進している。就任直後の演説でも、社会主義へのコミットメントを表明し、マルクス主義に基づき、経済・技術・軍事の各分野で資本主義諸国を凌駕するという長期的な戦略ビジョンを掲げている。
また中国は、米国との対立を背景に、対米強硬路線を取る国々との関係を強化してきた。特に、ロシアのプーチン大統領とは強固な関係を築き、中ロが加盟するBRICSで途上国への影響力を拡大させてきた。24年に開催されたBRICS首脳会議には30カ国以上の首脳が参加するなど、BRICSは新たな勢力として存在感を増している。
習主席が中国国内および共産党内部で一貫した指導体制を築いているのに対し、トランプ大統領は自らの直感と信念に基づいて政策を決定しており、現時点では戦略や政策目標が必ずしも明確でない。そのため、トランプ政権の動向を予測するには、大統領のアドバイザーの構成や意向が重要な手がかりとなる。
再選直後の24年11月時点では、自由貿易推進派やデカップリング推進派など異なる立場のアドバイザーが混在していた。しかし、政権発足後には自由貿易推進派が排除され、厳しい関税政策が迅速に実行される結果となった。現在のところ、債券、通貨、株式市場のトリプル安にならない限り、政権の方針転換は見込めない可能性もある。一方で、複雑なサプライチェーン構造を抱える経済界の意見を踏まえ、各国との交渉を通じて一定の軌道修正を図る姿勢も見せている。
■ 台湾を巡る安全保障上の課題
昨今、中国が台湾周辺での軍事演習を常態化させ、即時に攻撃可能な態勢を整えつつあるなど、台湾有事のリスクが高まっている。また、頼清徳総統の就任以降、立法院では野党が多数派となり、台湾政府が目指す軍事予算の拡充が難航している。この結果、台湾は軍事力の縮小を余儀なくされており、防衛の弱体化が進行している。加えて、トランプ政権が台湾防衛に消極的な姿勢を見せていることも不安要素であり、台湾有事が発生した場合、米国が積極的に介入する可能性は限定的との見方が強まっている。
【国際協力本部】