
池田氏
経団連は5月13日、雇用政策委員会人事・労務部会(直木敬陽部会長)をオンラインで開催した。筑波大学ビジネスサイエンス系の池田めぐみ助教が「ジョブクラフティングによる若手社員の能力・取り組み向上」と題して講演したほか、企業2社から若手社員の活躍推進に関する事例を聴いた。池田氏の講演概要は次のとおり。
■ 今の若手社員の特徴
昨今、若手社員の価値観・就労観が大きく変容している。終身雇用が当たり前ではなくなり、若いうちから転職活動を経験する人が多くなっている。また、SNSの影響により、他人からうらやましがられる仕事がしたいという欲求が強い。さらに、将来が分からないため、「今を大切にしたい」「早いスパンで成長できる仕事がしたい」と考える層が増えている。
このように「若いうちの苦労」に否定的な声が増加傾向にあり、会社目線の「修行」(自身の成長にすぐに役立つと感じられない業務経験)を当然とは思っていない。一方で、適度に重い責任や職務範囲の広い仕事を若手社員に担わせることは成長につながるため、「修行」は必要といえる。しかし、上司が適度な課題と考えても、若手社員が過大と感じる場合がある。部下目線で適度なチャレンジを促すことが大切である。
「修行」を必ずしも好まない層に対し、成長につながる経験をさせる有効な手法がジョブクラフティング(JC)である。
■ 若手社員の育成・活躍推進に役立つJC
JCとは、「個人が仕事におけるタスクや関係的境界を物理的あるいは、認知的に変えること」である。具体的には、(1)仕事そのものを変更する「タスク次元JC」(2)他者との関わり方を変える「人間関係次元JC」(3)仕事の意味を捉え直す「認知次元JC」――の三つから成る。
JCが若手社員の育成・活躍推進に有効な理由は、自身の市場価値を高めたい、あるいは早く成長したいと考えている層にとって、成長の機会を自ら創出することにつながるからである。例えば、「営業のコツ」を学ぶ社内勉強会を企画し、営業スキルを高める場を自らつくることができる。
やりがいや仕事の楽しさを重視する層にとっては、仕事に自分の好みや趣味の要素を加えることによって、モチベーションを向上させ、パフォーマンスや幸福度も高めることが効果的である。例えば、SNSが趣味の社員が、企業アカウントを運営するケースが該当する。
■ 若手社員におけるJC活用の課題
若手社員に対してJCを活用する際の課題として、大きく三つ挙げられる。
一つ目は、「何をしてよいのか、最初は分からない」ことである。若手社員は自身の担当業務が誰の役に立っていて、他の業務とどのようにつながっているのかが分かりにくく、役割の意味付けを理解することが難しい。そこで、職場内におけるJCの成功体験の共有や、仕事を振り返る機会の設定が有益である。
二つ目は、「周囲がJCを許容しない」ことである。JCは若手社員に一定の裁量を与えないと定着しない。そこで、上司が若手社員を信頼してある程度任せるとともに、「協同的JC」を行うことも有効である。チームとしてJCを実施すれば、相互に依存している仕事を若手社員個人が変えることのリスクを抑えられるほか、上司の視点を取り入れることで組織の利益につながりやすくなる。
三つ目は、「実現方法や裁量の範囲が分からない」ことである。できるだけ早く疑問を解消できるよう、ささいな相談がしやすい場を設け、JC活用を支援することが望ましい。
JCは、若手社員自らが成長環境を構築でき、自律的なキャリア形成を実現する手段となる。企業では、若手社員の価値観・就労観の多様性を前提にJCを活用し、若手社員が仕事に意味とやりがいを感じて働ける環境の整備が重要となる。
【労働政策本部】