経団連は4月24日、金融担当大臣の要請に関する説明会をオンラインで開催した。金融庁企画市場局の野崎彰企業開示課長から、3月28日に公表された金融担当大臣の要請「株主総会前の適切な情報提供について」の説明を聴くとともに意見交換した。
野崎氏は、「有価証券報告書の株主総会前開示」に係る今までの議論の経緯や、金融担当大臣要請が突如公表された背景、「有価証券報告書の定時株主総会前の開示に向けた環境整備に関する連絡協議会」の模様などを説明。これに対して企業側からは、次のコメントがあった。
1.本テーマを議論する真の目的
本テーマを議論する真の目的は、「株主総会前に株主の議決権行使に当たって有用な情報を提供すること」と「保証も含めた開示に係る実務負荷を効率化により軽減すること」の二つであり、その他は全て手段と考える。大臣要請の「株主総会前の有価証券報告書提出」にだけ着目することで手段が目的化してしまうことを懸念する。
2.数日前提出に対応する意義
○今回の大臣要請には「まずは有価証券報告書を株主総会の前日ないし数日前に提出」との記載があるが、当該短期的な対応の実質的な意義について強い疑問がある。世界最大の機関投資家からも「仮に株主総会の数日前に有価証券報告書が開示されたとしても全く意味はない」との意見を聞いている。全体として投資家が求めているとはとても思えない。
○企業側が実務負荷をかけてまで短期的な対応を行う価値があるのか、本来稼ぐ活動に充てられたリソースを割かれることで企業自体の活力がそがれることを懸念する声が社内でも多い。関係者には十分に企業側の実務負荷増について認識してほしい。
○開示書類が相対的に多い米国上場企業では、当該短期的な対応のために数百時間の工数を工面し、追加投入することが必要になる。
3.3週間前提出の実現に向けて
○実質的に意味のある3週間前の「有価証券報告書の株主総会前の開示」を実現するためには、「株主総会開催時期の後ろ倒し」が不可欠になる。実現のためには、金融商品取引法と会社法の制度横断的な議論が必須であり、会社法上の有価証券報告書の位置付けを明確にする必要がある。また、日本の実務慣行に深くなじんだ株主総会の開催時期を後ろ倒しするには、市場関係者全体の理解促進や機運醸成が不可欠であり、政府には万全の対応を求めたい。
○決算日後、米国では約1カ月、欧州では企業サステナビリティ報告指令(CSRD)も含めて約2カ月で年次報告書を開示できている。日本における開示や保証の実務も欧米に見合うようシンプルにし、日本企業が過度な実務負荷を負うことなく対応できる制度設計を目指すべく、関係者で議論してほしい。
その他、企業側からは、突然の大臣要請で実務上相当な混乱が生じたことや、金融庁が想定する大臣要請の次の施策、3週間前開示に向けた金融庁の具体的な取り組み、3週間前開示の実現手段として金融庁事務局が提案する「基準日変更」および「株主総会の後ろ倒し」の実例、英文開示などについても、質問やコメントが出された。
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その後、経団連から、資料「有価証券報告書の株主総会前開示について~投資家に対する有用で効率的な情報提供に向けて」に係る報告を行った。同資料は5月13日付で経団連ウェブサイトに公表。
【経済基盤本部】