
宮本氏
経団連は5月15日、金融・資本市場委員会資本市場部会インパクト投融資ワーキング・グループ(宮田千夏子座長)を東京・大手町の経団連会館で開催した。2024年5月から開催している同ワーキング・グループでは、参加企業からインパクト投融資の事例や課題を紹介してもらい、インパクトに係るデータ・指標に関する考え方を整理している。これまで14社・4組織から説明を聴いた。12回目の今回は、機関投資家の視点から見た責任投融資とインパクト投融資について、日本生命保険の宮本泰俊責任投融資推進室長から説明を聴くとともに意見交換した。概要は次のとおり。
■ 日本生命保険における責任投融資の理念
従来の責任投融資はESG(環境・社会・ガバナンス)の観点からリスク・機会評価を行う受動的なものであったが、今後は社会課題の解決(サステナビリティ・アウトカムの創出)に能動的に貢献するものに軸足を移していく。
グローバルに幅広く投融資を行うユニバーサル・オーナーとしては、市場における超過リターン(アルファ)を追い求めるだけではなく、市場全体のシステムレベルリスク(ベータ)を低減することで、地球・社会環境を健全に保つことが、ポートフォリオのリターン確保のために極めて重要である。
そこで、重要性が高く、また投融資で貢献できる可能性が高い六つのサステナビリティ重点取り組みテーマを設定した。これらの根本には、地球環境に不可逆的な変化を起こさないための境界線を九つの項目で示した「プラネタリーバウンダリー」の考え方がある。
■ 気候変動領域における取り組み
24年6月、トランジションファイナンスの実施要領を公表した。これはパリ協定の1.5℃以内への気温上昇抑制という目標に取り組む企業をファイナンスの面から支援するものである。もし企業の脱炭素移行計画がトランジション適格性に企業レベルで整合しない場合は個別アセットについて整合性を評価し、それも整合しない場合は通常の投融資を検討している。また、移行計画がパリ協定に整合しているかどうかはカーボンバジェットの概念を用いて評価し、その際は対象期間全体での排出削減量を見ることで一定の柔軟性を確保している。
こうしたトランジションファイナンスは、金融庁が定義するインパクト投融資そのものである。
■ インパクト投融資の現状と今後の課題
非財務情報を活用してアルファを獲得する、社会の安定維持によってベータを改善する、社会の安定維持に資する取り組みで企業価値を向上させてアルファを獲得するなど、インパクト投融資にはさまざまな形がある。
日本生命保険で設定した5000億円のインパクト投融資枠では、社会課題の解決による企業価値の向上を重視している。その課題解決は企業の中核ビジネスに関連しており、かつ新たなビジネス機会の獲得につながるようなストーリーがあることを求めている。今後は、この一連の流れを定性的なストーリーではなく、定量的な理論として捉えることに挑戦したい。また、地球規模の自然課題と人類の社会問題を統合的に捉える「プラネタリーヘルス」の考え方を導入し、インパクトを総合的に理解したい。
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その後の意見交換では、単独の企業が社会に影響を与えるのは難しいとの意見があった。これに対し宮本氏は、「ベータ改善への挑戦となる『Place–based Impact Investing』などの取り組みとして捉える考え方がある」とし、投融資にトランジション適格のラベルが付くメリットについては、「ラベルなしの投融資と比較して、支援のボリュームや強度が大きくなる」と説明した。
「数十年後までの脱炭素移行計画は科学的な信頼性に乏しいとの指摘にどう応えるか」との問いには、「ネットゼロ目標に対して完璧な計画は存在しないため、不完全でも信頼して行動することがユニバーサル・オーナーとしての責務であると考えている」と回答した。
【ソーシャル・コミュニケーション本部】