
平田氏
経団連は5月30日、東京・大手町の経団連会館で、危機管理・社会基盤強化委員会(永野毅委員長、安川健司委員長、齋藤充委員長)を開催した。東京大学の平田直名誉教授から、大規模地震災害を見据えた防災・減災対策のあり方について説明を聴くとともに意見交換した。説明の概要は次のとおり。
■ 地震による揺れ予測
大地震の事前予測は重要である。政府の地震調査研究推進本部が行った全国の地震動予測によると、今後30年の間に震度6弱以上の揺れに見舞われる確率が26%以上の地域は全国に幅広く分布する。この確率は、火災による罹災(30年以内に0.94%)や交通事故での負傷(同12%)の確率よりもはるかに高い。経団連会館のある大手町1丁目が震度6弱以上の揺れに見舞われる確率は49.6%であり、必ず大きく揺れると考えておいたほうがよい。
■ 災害誘因と災害素因
災害がもたらす被害は、「災害誘因」と「災害素因」の掛け算で決まる。災害誘因とは、地震動や津波のように、社会の外部から加わる自然現象の力を指す。他方、災害素因とは社会や組織が内在的に持つ災害に対する特性を指し、(1)暴露量(地震等にさらされる人や建物の集積)(2)脆弱性(耐震強度の弱さ)(3)回復力――から成る。
被害を軽減するに当たり、災害誘因の制御は難しい。むしろ、災害素因の脆弱性や回復力の改善が重要である。
■ 南海トラフ地震・首都直下地震の特徴と対応策
南海トラフ地震は、強震動と高い津波に暴露する面積が広く、津波による人的被害が大きくなる。これに対し首都直下地震は、首都圏の人口集中地域に被害が及ぶため、火災による被害が甚大となる。
地震から命を守るためには、まず直接死の原因となる建物倒壊を防ぐべく、耐震化を進めることが重要である。令和6年能登半島地震で倒壊した建物を見ると、1981年以前の旧耐震基準の建物が多く、最新の2000年基準の建物の倒壊はほとんどなかった。南海トラフ地震の被害想定でも、耐震化率を100%にすれば犠牲者数を最大で4分の1に減らせると試算されている。
津波の重要な対策は早期避難である。南海トラフ地震の際に、早期避難意識が高まっていれば犠牲者を約4割に抑えられる。避難に当たって、(1)どこに逃げるか(2)どの経路で逃げるか(3)支援が必要な人がいる場合は誰と逃げるか(4)何を持って逃げるか――を日頃から考えておいてほしい。
また、人命はもちろん、生活を守るという意味でも、企業には事業継続計画(BCP)の策定をお願いしたい。事業所や従業員、その家族が被災すれば、人命、そして雇用にも影響する。従業員やその家族の生活環境が悪化すれば、災害関連死のリスクも高まってしまう。
企業規模が小さいほどBCPの策定率が低い。経済活動全体の維持という観点から、大企業には顧客や取引先の中小企業に策定を後押しし、あらかじめ災害時の対応を協議しておくことを期待する。そうすれば地域全体の災害からの回復力も向上するだろう。
【ソーシャル・コミュニケーション本部】