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Action(活動) 週刊 経団連タイムス 2025年6月19日 No.3687 中国における持続的なイノベーション -中国委員会企画部会

伊藤氏

経団連は5月20日、東京・大手町の経団連会館で、中国委員会企画部会(鈴木健史部会長)を開催した。東京大学社会科学研究所の伊藤亜聖准教授から、中国におけるイノベーションについて説明を聴くとともに意見交換した。説明の概要は次のとおり。

■ イノベーション持続の背景と政治体制の影響

中国において、権威主義体制のもとでイノベーションが持続している主な要因として次の3点が挙げられる。

第一に、研究開発(R&D)への投資が長期的に拡大を続けており、近年では中長期的な技術開発プロジェクトも増加傾向にあること。第二に、企業家や研究者など質の高い人的資本が豊富であること。第三に、各地域でイノベーションの土壌となるエコシステムや産業基盤が確立されていること――である。

第2期習近平政権以降、イノベーションは中国の国家戦略の中核として位置付けられている。2024年12月の中央経済工作会議でも、内需拡大と並ぶ重点課題として、戦略的産業の育成と技術革新の推進が位置付けられている。こうした政策的支援も、イノベーションが継続する要因である。

権威主義体制下では、民主主義体制と比べて経済に対する指導者の影響力が非常に大きい。実際、権威主義国家における指導者の突然死が経済成長につながるという推計も存在する。

公表される統計データが政治的にゆがめられる可能性があることから、実態把握の代替手法として、経済活動との相関性を持つ夜間光データ(注)の活用が進んでいる。例えば米国において、第1次トランプ政権下で導入された対中関税は、一般市民への影響は限定的だった一方、輸出依存度の高い地域には深刻な経済的打撃を与えていたことが、夜間光の分析から明らかにされている。

■ ゆがみのなかで進むイノベーションとそのリスク

中国のイノベーションは、自由な言論空間や学術環境に制約があるなかでも進行しているが、権威主義体制特有のゆがみを抱えている。SNS上では、デモなど集団的行動を扇動する投稿は厳しく規制されるが、政策や指導者への批判は「戦略的検閲」として政権のリスク管理や政策改善の一助と見なされ、ある程度容認されている。また、学術研究分野でも政府の影響が強く、イノベーションの根源たる研究の自由が制限される懸念が指摘されている。さらに、中国共産党の高等教育機関出身者が経営トップを務める国有企業では、地方政府の成長目標に沿った保守的な経営が優先される傾向にあり、ハイリスクな技術開発が抑制され、イノベーションが進みにくい傾向が見られる。

それでも、深圳市のような技術革新が盛んな地域では、米中対立の激化により、米国をはじめとする海外市場へのアクセス制限を受ける一方で、国内市場の開拓や半導体等の国産化など新たな需要が生まれ、成長の機会となっている。また、政府系投資ファンドへの依存が強まり、国家主導型のイノベーションが加速している。

以上のように、中国では物的・人的資源に支えられたイノベーションが進む一方、政治的制約や制度的ゆがみに起因するリスクも存在する。日本の政府や企業は、個別事案に応じた柔軟かつ冷静な対応が求められる。

(注)宇宙から見た夜景である「夜間光」を定量化したデータ。夜間光の強さは、夜間の経済活動を反映していると考えられている

【国際協力本部】

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