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Action(活動) 週刊 経団連タイムス 2025年6月26日 No.3688 石井東大特任教授・CGCダイレクターとの懇談会を開催 -経団連自然保護協議会

石井氏

経団連自然保護協議会(西澤敬二会長)は5月20日、東京・大手町の経団連会館で、東京大学未来ビジョン研究センター特任教授で、グローバル・コモンズ・センター(CGC)ダイレクターを務める石井菜穂子氏との懇談会を開催した。

世界では、昆明・モントリオール生物多様性枠組(GBF)の実現に向けて、企業によるネイチャーへの取り組みのスケールアップ・スピードアップが目指されている。そこで石井氏から、ネイチャー・ファイナンスを巡る最新動向と今後の課題について説明を聴くとともに意見交換した。概要は次のとおり。

■ ネイチャー・ファイナンスの現状と課題

地球システムの安定性と人間の経済活動との緊張関係を示すプラネタリー・バウンダリー指標(注)は、九つのうちすでに六つが安全域を超過し、自然喪失が人類の生存基盤を揺るがす状況となっている。

その一方で、自然の保全と回復のための投資であるネイチャー・ファイナンスは極めて限定的である。自然保護に関するプロジェクトの多くは小規模かつ運営費用も高額であり、市場で取引される自然資本はごく一部に過ぎない。実際のところ、総額約100兆ドルに上る全世界のGDPに対し、ネイチャー関連のクレジット市場は年間約56億ドル程度と小規模にとどまっている。

■ 自然資本の価値付けと経済取引への組み込み

こうした状況に対する抜本的な解決策の一つは、これまでは「無限」であり「無料」と見なされていた自然資本に貨幣価値を付け、経済取引に乗せていくことである。公的機関を中心とした、プロジェクトベースでの資金拠出に偏ることなく、民間主導で資金を安定的に供給できる仕組みが必要である。しかしながら、多面性や地域性といったネイチャー特有の複雑さゆえ、適切な価値付けは容易ではなく、このままでは自然資本の毀損に歯止めがかからないと懸念される。

これまでも、自然資本の価値をビジネスや社会への貢献として計測する作業や、企業や自治体で自然資本のバランスシートを考える試み(自然資本会計)は行われてきた。しかし自然と経済システムの関係を根本的にリセットするには、自然資本の価値がビジネスの意思決定に直接活用される必要がある。この観点から、CGCでは、計測された自然資本が財務的価値として認識されることを目指すイニシアティブに取り組んでいる。

自然資本が財務的価値として認識されるためには、市場での取引や契約といったトリガー・イベントを増やすことが重要であり、計測・評価の専門家、会計基準の専門家、市場規制の専門家など市場インフラ全体の変革等を追求しつつ、経済システムの根本的な転換を目指す必要がある。

◇◇◇

説明後の意見交換では、参加者から、自然資本の価値を定量化する自然資本会計のフェーズから自然資本の財務的価値を認める(財務会計上で認識させる)フェーズへの移行に当たり、システムやルール転換の必要性を踏まえた現実的な時間軸や、自然資本がコモンズ(共有される資源)ゆえに貨幣価値に換算することの難しさなどについて指摘があった。

これらに対し石井氏は、「市場整備への政府の関与や、投資家の成熟度などが時間軸を左右し得る」「自然資本に対する所有権が存在しなくとも使用権を有する者を特定していくことで価値付けが可能である」との見解を示した。その他、自然資本の価値評価に当たり、リスクの低減にとどまらず、成長の源泉と捉えながら取り組む重要性などを巡って、活発に意見交換した。

(注)地球の健全性を理解するための科学的根拠に基づく枠組み。「気候変動」「生物圏の一体性」など九つの項目において限界点を示している

【経団連自然保護協議会】

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