
杉山氏
経団連は7月2日、東京・大手町の経団連会館で常任幹事会を開催した。外務省顧問で、経団連総合政策研究所エグゼクティブフェローを務める杉山晋輔氏が、米国・トランプ政権を巡る動向について講演した。概要は次のとおり。
■ 第1次トランプ政権下の日米協議
ビジネスマン出身のトランプ大統領は、外交交渉でディール(取引)を重視している。米国と相手国の双方が納得する範囲で、米国の利益を最大限引き出すことを強く意識している。
日米貿易摩擦が大きな問題として注目されていた1980年代、日米貿易における米国の貿易赤字額は500億ドル程度であったが、近年では600億ドルを超えている。このため、第1次トランプ政権でも、貿易赤字削減が大きなテーマとなり、日米協議が実施されることになった。
日本は、米国が離脱した環太平洋パートナーシップに関する包括的及び先進的な協定(CPTPP)や、日EU経済連携協定といった自由貿易協定を先行して締結したうえで協議に臨み、結果として、日米貿易協定の締結に至った。
同協定では、農林水産品に関する日本側の関税はCPTPPの範囲内となった。工業品に関しては、特に議論となった自動車・自動車部品についてさらなる関税引き下げを意図した「関税の撤廃に関してさらに交渉」との文言が明記されるなど、バランスの取れた合意内容となり、日本にとっても大きな成果となった。
■ 第2次トランプ政権下の日米協議
第2次トランプ政権の関税措置に関する今般の日米協議は、第1次政権下における日米協議より困難なものとなっている。
第一に、トランプ大統領は、第1次政権の際には大統領再選を考える必要があったが、米国大統領への選出は合衆国憲法で2期までに制限されていることから、第2次政権では大統領再選を考える必要がなく、より独自色を出しやすい状況となっている。
第二に、日米貿易協定による市場開放が進んだうえでの協議であることから、日本が追加で提示できる交渉材料は限られている。
「多角的な自由貿易体制」等の原理原則を日本が米国に繰り返し主張することも当然重要ではあるが、ディールを重視するトランプ大統領には、説得力をもって響かない。
現状、日本が投資等を通じて米国経済にどれだけ大きく貢献しているか明らかにしたうえで、米国が一方的に提示してきた期限に過度にとらわれることなく、国益を守る観点から、柔軟かつ戦略的に対応していくことが重要である。
貿易とは別分野ではあるが、安全保障等の分野においても日米の協力関係を一層深化させ、日米関係の重要性を米国に再認識させるべきである。
首脳同士の話し合いのみならず、トランプ大統領と親密な関係にある米国内の有力議員や関係者への働きかけも強化し、オールジャパンで対応していくことが求められる。
【総務本部】