
小山氏
経団連は7月4日、東京・大手町の経団連会館で国際エネルギー情勢に関する講演会を開催した。日本エネルギー経済研究所の小山堅専務理事から、中東情勢をはじめとする国際エネルギー情勢の展望と課題について説明を聴くとともに意見交換した。概要は次のとおり。
■ 直近の中東情勢とエネルギー価格への影響
イスラエルからイランへの攻撃に端を発する「12日間戦争」の勃発により、原油市場の焦点はファンダメンタルから地政学リスクへと移り、原油は一時70ドル超まで急騰した。しかしその後も中東原油の供給は途絶えず、イランの報復が抑制的であったことから、原油価格のリスクプレミアムが剥落し、沈静化した。
それでも、イランの核開発を巡る状況は本質的には変わっておらず、地政学リスクは継続している。石油供給に影響を及ぼす事案が発生すれば、原油価格は大きく変動する可能性がある。
特に日本は、原油の95%を中東に依存している。可能性は極めて低いが、ホルムズ海峡が封鎖されることがあれば、甚大な影響が生じる。
■ 複雑化するエネルギー安全保障
ウクライナ危機によって、欧州はロシアからのガス供給を失い、ガス価格は暴騰した。米国の液化天然ガス(LNG)の確保などによって危機を乗り越えたものの、エネルギー安全保障の課題が顕在化した。
日本国内でも電力の需給逼迫や価格高騰に至り、データセンター等による電力需要拡大も相まって、原子力発電に対する世論は変化し、電力の安定供給が最優先課題になった。
電気自動車(EV)用蓄電池サプライチェーンの中国依存など、戦略物資の特定国への高い依存といった経済安全保障の課題も顕在化してきた。世界的に、脱炭素のための生活コスト増加が政治的にも社会的にも許容されにくくなっている。
そのため、国・地域ごとに脱炭素に向けた「多様な道筋」を認め合う現実路線の踏襲とともに、脱炭素化のコストを抑制しつつ、脱炭素とエネルギー安全保障の同時達成を可能とするイノベーションの重要性が増している。
■ 「トランプ2.0」と日本が進むべき道
再登板した米国トランプ政権がエネルギー情勢に与える影響も大きい。米国の気候変動対策は大きく転換しているといえ、パリ協定からの再離脱により国際交渉のモメンタムは低下し、中国の存在感が相対的に高まる可能性がある。
化石燃料重視のエネルギードミナンス(注)を掲げるが、関税強化で世界経済が減速すればエネルギー需要も鈍るうえ、エネルギー価格低下によって、エネルギー採掘自体が阻害されかねない。インフレ抑制法の政策支援が見直され、クリーンエネルギー投資も不透明感が増している。
そうした情勢下で策定された日本の第7次エネルギー基本計画(エネ基)では、3E(安定供給、経済性、環境性)のなかで安定供給が最も優先されていると読み取れる。原子力発電の最大限の活用にもかじが切られ、国民理解のもとで再稼働できれば、効率的にエネルギー転換を進めることが期待できる。
エネ基で、再生可能エネルギーについて、統合コストを考慮したベストミックスが求められた点も重要である。理想像が実現できなかった際の「戦略的プランB」が掲げられた点も評価すべきで、LNGの安定確保がカギを握る。
2025年2月の日米首脳会談では、エネルギーが日米協力の中核テーマとして位置付けられた。アラスカのLNGプロジェクトが注目されているが、日本としては米国のLNG全体を包摂し、エネルギー協力の規模を拡大する方向で交渉をする必要がある。
日本が米国LNGの市場拡大に向け、アジア市場への橋渡し役を担うことも重要になる。
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その後の意見交換では、(1)エネルギー転換に向けたインフラ整備の課題(2)サウジアラビアの動向(3)水素をはじめとする新燃料の可能性(4)原子力推進に向けた政府イニシアティブの必要性――などを巡り議論が交わされた。
(注)米国の石油・ガスなどのエネルギー供給ポテンシャルを活用し、国益最大化を図る戦略
【環境エネルギー本部】