
市村部会長
経団連は6月2日から13日にかけて、スイス・ジュネーブの国際労働機関(ILO)本部・国連欧州本部で開催された第113回ILO総会に日本使用者代表団を派遣した。
同総会にはILOに加盟する171カ国から6800人以上が参加。日本からは、田中誠二厚生労働審議官(当時)、市村彰浩経団連労働法規委員会国際労働部会長、清水秀行日本労働組合総連合会事務局長が政労使の代表として出席した。概要は次のとおり。
■ 市村部会長が代表演説
10日に代表演説に立った市村部会長は、「雇用、権利、経済成長」をテーマとしたジルベール・F・ウングボILO事務局長報告を受けて、経団連の方針や活動について紹介。経団連が目指しているサステイナブルな資本主義の実現は、民主主義を前提としており、ウングボ氏の報告が示した「民主主義による雇用と権利、経済成長のつながりの再強化の必要性」との考え方と軌を一にしていることを強調した。
日本の大きな課題の一つである「分厚い中間層」の形成については、経団連が2024年から、「賃金の引き上げは企業の社会的責務である」という強い表現を用いて、企業に働きかけていることを紹介した。
バブル経済崩壊後、30年に及ぶデフレに見舞われ、中小企業の価格転嫁が困難な状況が続いた背景を説明したうえで、賃金引き上げの実現には、中小企業による構造的な賃金の引き上げが重要であり、大手企業と発注企業側による適正な価格転嫁の積極的な推進、中小企業の生産性向上の支援を呼びかけていることを力説した。
世界は今、地球規模でさまざまな危機に同時に直面しており、複雑かつ困難な問題に対処していく必要があると指摘。政労使による民主的な対話の促進が求められているなか、民主主義に基づく健全な資本主義の実現とそれを強化するためにディーセントワークが万人に広がるよう、経団連は引き続きILOの活動に積極的に貢献していくと意気込みを語った。
■ 主な議題
同総会では、新たなILO条約や勧告の策定を議論する「基準設定討議」において「生物学的な危険に対する予防と保護」の第2次討議が行われ、「条約案」と「勧告案」が採択された。同条約・勧告は、労働環境における生物学的危険(病原体、毒素、アレルゲン等)から労働者の生命と健康を守ることを目的としている。
「プラットフォーム経済におけるディーセントワーク」の第1次討議も行われた。使用者側と米国、日本政府をはじめとする一部の政府は拘束力のない「勧告」の策定を求めたが、3日間にわたる議論の末にコンセンサスに至らず、投票の結果、「勧告で補足された条約」を策定することとなった。
デジタル労働プラットフォームや、デジタルプラットフォームワーカーの定義を巡る議論に大半の時間を費やしたため、結論に至った項目は全体の14%程度に過ぎず、雇用分類や労働安全衛生、自動化システムの影響など、ほとんどの個別論点は26年の第2次討議へ持ち越された。
条約や勧告の策定ではなく、時々の課題や将来のILO活動を議論する「一般討議」では、「インフォーマリティへの対処とフォーマリティへの移行促進のための革新的アプローチ」をテーマに議論した。
【労働法制本部】