
田中氏
経団連は8月26日、東京・大手町の経団連会館で通商政策委員会企画部会(神戸司郎部会長、清水祥之部会長)を開催した。経済産業省通商政策局の田中将吾通商戦略課長から「通商戦略2025」について説明を聴くとともに意見交換した。説明の概要は次のとおり。
■ 戦略策定の背景
新自由主義とブレトンウッズ体制のもと、わが国は自由貿易の恩恵を享受してきた。しかし米中二大巨頭のガバナンスが失われ、国際情勢は混沌とした状況になっている。国際経済秩序は歴史的な転換点を迎え、米国一強時代から、保護主義による経済ナショナリズムの時代、多極化の時代に移りつつある。
これまで国際経済秩序の形成をリードしてきた米国で、グローバル化に対する反動、国際枠組みに対する不満が噴出し、保護主義的貿易政策や自国第一政策を掲げる国も見られる。
中国経済の拡大に加え、インド等のグローバルサウス(GS)の経済が急拡大し、それらの国で、各国による厳しい市場獲得競争が行われている。
中国では、国内経済の内需拡大が以前ほどは見込まれず、不動産市況も悪化している。中国経済の動揺は、世界市場に混乱をもたらしている。
こうした厳しい国際環境を生き抜くため、わが国の「通商戦略2025」を6月に取りまとめた。
■ 通商戦略の三つの柱
通商戦略の目標として、三つの柱がある。
一つ目の柱は「国際秩序経済の揺らぎへの対応」である。世界で保護主義が台頭し、ルールが軽視されるなか、日本にとってルールに基づく自由な貿易・投資環境の確保は必要不可欠である。
そのため、ルール整備の議論に当たり、日本がリーダーシップを取ることが重要である。まずは既存の世界貿易機関(WTO)、G7、環太平洋パートナーシップに関する包括的及び先進的な協定(CPTPP)等のチャネルを最大限活用するとともに、バイ(二国間)やプルリ(複数国間)、ミドルパワー連合をつくるなど、さまざまなチャネルを使ってルール整備を行う必要がある。
その際には、先進国だけではなく、開発途上国の利益も考慮し、互恵的なルールを作ることが重要である。こうした仲間づくりを進めるうえで、日本が戦後築いてきた各国との信頼関係は何よりの資産である。
二つ目の柱は「海外活力の取り込み」である。今後も日本国内の内需拡大が大きく見込めないなか、GS諸国では1人当たりGDPも人口も増加しており、GS市場の取り込みは通商戦略の一つの重要テーマである。
GSの関心等は国ごとに異なるため、各国の事情に合わせ、官民を挙げて協力関係をつくる必要がある。
市場を開拓し、協創していくため、GS補助金をさらに深掘りしていくことも視野に入れ、政策的措置をしていく。
三つ目の柱は「自律性・不可欠性の確保」である。非市場的政策をとり、経済的威圧を行う一部の国があるなかで、それらに対応する自衛手段を、同志国間で経済安全保障として担保していく必要がある。
その際は、日本の庭先だけをきれいにするのではなく、各国でルールの足並みをそろえて議論することが重要である。国によって課題や考え方は異なるが、共通の問題意識を持っている国もあるため、今後は官民連携を通じて複数国間で経済安全保障を確保するフレームワークを作りたい。
【国際経済本部】