
吉澤氏
経済産業省の産業構造審議会知的財産分科会特許制度小委員会において、国際的な事業活動におけるネットワーク関連発明等の適切な権利保護、AI技術の発達を踏まえた特許制度上の適切な対応のあり方、知的財産の侵害抑止へ向けた取り組み等について、検討が行われている。
経団連では8月29日、東京・大手町の経団連会館で知的財産・国際標準戦略委員会企画部会(和田茂己部会長)を開催し、特許庁の吉澤隆総務部長から、同小委員会における検討状況について説明を聴くとともに意見交換した。説明の概要は次のとおり。
■ ネットワーク関連発明の適切な権利保護
特許権は属地主義の原則のもと、その国の領域内においてのみ行使が認められるとされているが、技術の進展や産業構造の変化を踏まえ、ネットワーク関連発明について、実質的に国内の実施行為と認められるための要件に関し、検討を進めてきた。
2025年3月に最高裁判決が言い渡された「ドワンゴ対FC2事件」では、サーバーが海外に存在する状況で特許権を行使できるかが争点となった。国内に存在するユーザーにサービスを提供していることが実質的に日本の領域内における実施行為に当たると評価され、特許権者が勝訴した。
しかし、同事件はあくまで個別のケースに関する事案であり、他の事案についても広く一般化する判示となっていない。ユーザーおよび特許権者双方の立場から予見可能性を確保すべく、どのような場合に「実質的に国内の実施」と評価されるのか、明確化が必要である。
発明の(1)「技術的効果」と(2)「経済的影響」が共に国内で発現していることを要件に採用する方向で、(3)「特許発明の構成要素の一部が国内で実施」の要件について、特許権の十分な保護とクリアランス負担のバランスや国際調和といった要素を考慮しながら検討を進めていく。
■ AI技術の発達を踏まえた特許制度上の適切な対応のあり方
AI技術を活用した研究開発が普及しつつあり、従前より人間が関与する程度が減少しつつある。「知的財産推進計画2024」では、AIを利活用した創作の特許法上の保護のあり方について検討すべきと盛り込まれ、特許庁ではAIと特許法に関する調査研究を実施している。
発明者欄に「ダバス(人工知能)」と記載されたダバス事件では、発明者は自然人に限られるものと解するのが相当であることに加え、AI発明について広範かつ慎重な議論を踏まえた立法化のための議論が必要と判示された。
同小委員会では、(1)AIを利用した発明が特許法上の「発明」に該当するか(2)AIを利用した発明における「発明者」の定義(3)AIを利用して生成した資料・論文等が、他の発明の新規性・進歩性の判断の根拠となるかという「引用発明適格性」――の三つについて主に検討してきた。
国際調和に配慮しながら、産業の発展を阻害しないような法制度・ルールを整備すべきとの意見を踏まえ、引き続き実態を把握しながら検討を深めていく。
■ 知的財産の侵害抑止へ向けた取り組み
「新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画2024年改訂版」において、中小企業およびスタートアップが保有する知的財産の侵害を抑止するための取り組みを行うと盛り込まれ、公正取引委員会と中小企業庁による企業取引研究会で問題提起があった。
こうした背景を踏まえ、ヒアリングおよび諸外国における制度調査の結果、損害賠償について懲罰的賠償ではなく、バランスの取れた制度とすべきと整理された一方、特許表示について侵害抑止として活用の余地があるとして、侵害の実態を把握したうえで、検討を進めていく。
【産業技術本部】