
田中氏
経団連は9月26日、東京・大手町の経団連会館で観光委員会(菰田正信委員長、武内紀子委員長、野本弘文委員長)を開催した。九州大学アジア・オセアニア研究教育機構の田中俊徳准教授から、観光立国の実現に向けた課題や展望等について説明を聴くとともに意見交換した。説明の概要は次のとおり。
■ 現状と課題~海外と日本のオーバーツーリズムへの対応
わが国を含め世界各地で問題となっているオーバーツーリズムは、「特定の観光地において、訪問客の著しい増加等が、地域住民の生活や自然環境、景観等に対して受忍限度を超える負の影響をもたらしたり、観光客の満足度を著しく低下させるような状況」(JTB総合研究所)と定義される。
観光地や観光インフラにおいて受け入れ可能なキャパシティを超えたオーバーツーリズムは、生態系の破壊や自然環境の損傷等の悪影響を与えるのみならず、観光客の体験の質や満足度の低下、事故の増加をもたらす。
重要な観光資源を営利目的で利用する場合、海外の国立公園等では免許や許可が必要とされる。これにより、免許料を管理費用に充当し、悪質な事業者を排除することが可能となる。
一方、日本では、観光資源の活用にもオーバーツーリズム対策にも税金が投入されるため、占有行為や脱税等を行う悪質な事業者を排除できず、税金の浪費、さらには観光に対する国民感情の悪化につながっている。
観光が地域や環境、社会に及ぼす過大な負の外部性を減少させるためには、規制や課税、適切な情報共有等によって内部化する必要がある。観光関連産業のみが利益を得て、地域住民が迷惑を受けるという非対称性も是正しなければならない。
■ 対策~持続可能な観光の実現に向けて
持続可能な観光を実現するうえで、(1)規制的手法(例=事前予約制等)(2)経済的手法(例=出国税や宿泊税の徴収等)――による対策が効果的である。
(1)事前予約制
国立公園や文化財、観光施設における事前予約制や許可制、免許制といったルールは、海外では一般的である。
事業者や観光客にとってコストとなるものの、悪質な事業者・観光客に対する参入障壁となり、良質な観光を守ることにつながる。環境や観光資源が守られるばかりか、事業者にとってのインセンティブが担保され、より付加価値の高い観光への転換が可能となる。
(2)出国税
地方自治体を支える交付税は、基本的にその地域の人口と面積で決まるため、観光客が増加しても地方税や地方交付税の増加につながるわけではない。地方自治体の財政弾力性は極めて乏しいため、オーバーツーリズムの対策は財源とセットで考える必要がある。
政府は目下、出国税の税額について議論しているが、増額された場合の増収分の使途は、観光振興でなく、地域や環境を保全するための対策に充当すべきである。
■ 将来展望~わが国観光政策の望ましいあり方
観光立国の推進に当たっては、入り込み客数ではなく、泊数や消費額、住民・観光客の満足度を政策の軸とし、地域や環境、社会を守ることを優先すべきである。
災害多発国というわが国の特性からも、観光産業への過度な依存は危険であり、キャパシティを重視し、地に足の着いた観光立国を目指す必要がある。
将来的には、耕作放棄地や廃校、空き家といった地域や環境の課題を解決する「再生型観光」(マイナスをプラスへ)を通じて、地方創生ならびに自然共生社会を実現することが望まれる。
【産業政策本部】