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Action(活動) 週刊 経団連タイムス 2025年11月20日 No.3706 ヘルスデータ利活用特別法の課題と今後の展望 -イノベーション委員会ヘルステック戦略検討会

森田氏

わが国ではこれまで、ヘルスデータの利用には本人の「同意」を前提とする「入口規制」が重視されてきたが、その厳格な運用がデータ利活用の妨げとなっていた。

医療機関ごとにデータ形式やID体系が異なることも、1次利用(医師による診療など患者に直接関わる利用)だけでなく、2次利用(研究、創薬、政策立案など公益目的での利用)が進みにくい状況をつくり出していた。

こうした課題を踏まえ、政府は2025年9月に「医療等情報の利活用の推進に関する検討会」を設置し、27年通常国会への新法(ヘルスデータ利活用特別法〈仮称〉)の提出に向け、検討を進めている。

経団連は10月15日、東京・大手町の経団連会館でイノベーション委員会ヘルステック戦略検討会を開催し、東京大学名誉教授で次世代基盤政策研究所代表理事を務める森田朗氏から、同法の課題と今後の展望について説明を聴くとともに意見交換を行った。説明の概要は次のとおり。

■ 医療データの利活用~潮流の変化

出生から死亡までのライフログデータは、個別最適な医療の実現、臨床研究・創薬の加速、エビデンスに基づく効果的な政策立案など、個人と社会の双方に価値をもたらす。

他方、日本には質の高いデータが大量に蓄積されているにもかかわらず、医療機関間で共通IDやデータ規格が整っておらず、「同意」と「匿名化」に過度に依存した個人情報保護が障壁となり、医療施設を横断した解析や2次利用が進みにくいのが現状である。

このため政府は、本人同意を原則とする入口規制に依存せず、プライバシー保護を前提に、利活用段階で審査・監督を行う「出口規制」への転換を進めようとしている。

■ EHDS

参考となるのが、25年3月に欧州で発効した欧州ヘルスデータスペース(EHDS)である。「One Patient, One Record(一人一つの記録)」の理念を掲げ、患者の治療・健康管理等のための1次データと、研究・公衆衛生・医療政策などに用いる2次データの双方を、EU域内で安全に流通させる制度である。

EU域内での越境データ利用では、情報プラットフォーム「MyHealth@EU」が1次利用、「HealthData@EU」が2次利用の越境連結の機能を担い、各国のヘルスデータアクセス機関(HDAB)が2次利用における審査・監督を行う出口規制を採用している。

公益目的での越境利用に際しては、同意取得への過度な依存、手続きの煩雑さ、社会的受容性の確保(プライバシー・セキュリティーへの不安等)が課題とされている。

■ 制度化に向けた論点

日本での制度整備に当たっては、(1)1次・2次利用を含めた制度全体のグランドデザインを明確化した新法の制定(2)「同意」に過度に依存せず、本人の権利利益への影響に応じて適切な措置を講じる「リスクベース」の枠組み(3)2次利用の際に、誰が・どの目的で・どのような方法でデータを扱うかを明確にしたガバナンスの確立(4)費用負担と持続可能な運用体制(5)国民からの信頼の確保――が主な論点となる。

特に、利活用の便益とプライバシー保護の両立、手続きと監督の透明性、多様な関係者の参画による理解促進が不可欠である。

【産業技術本部】

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