経団連自然保護協議会(西澤敬二会長)は10月22日、ネイチャーポジティブ(NP)経営推進のための懇談会をオンラインで開催した。大阪大学大学院法学研究科の大久保規子教授から「エコロジー法の国際潮流~生物多様性と他分野との政策統合に向けて」と題して説明を聴いた。概要は次のとおり。
■ 生態系中心主義の潮流
生物多様性の損失や気候変動などの環境危機に直面し、環境法において、生態系中心主義(ecocentrism)の潮流が生まれている。
この背景には、憲法のなかに環境権あるいは国民の環境保護義務や予防原則等を定め、憲法を頂点とする国全体の体系のなかに環境を明確に位置付けて政策を統合的に進める環境立憲主義(Environmental Constitutionalism)の考え方が国際的に主流となっていることがある。
現在、国連加盟国の80%以上の159カ国が環境権を承認しているが、実体的環境権は多様である。
国連の一連の報告書を分析すると、(1)清浄な大気(2)安全な気候(3)健全な生態系と生物多様性(4)安全で十分な水(5)健全で持続可能な食料(6)無害な環境(重金属による大気・水・土壌汚染)――の6要素が同定される。スペインやアルゼンチンでは、環境保護は憲法上の義務とされている。
■ 中南米発の新潮流
こうしたなか、環境権に「持続可能性の原則」や「自然の権利」等を加えた「エコロジー憲法」をはじめとして、環境法の「エコロジー法」化の動きがみられる。
2008年には、エクアドルが世界初となる「生態系憲法」を制定した。企業は法人格を有するのに、なぜ生存する自然が権利を持てないのか、といった問題意識から「自然の権利」が基礎的な価値概念として盛り込まれた。
実際にこの憲法によって、鉱物採掘を巡る訴訟が起き、自然の権利侵害を理由に採掘許可が無効になった事例もある。
10年にはボリビアで「聖なる大地の権利法」が制定された。聖なる大地とは、「運命を共有し、相互に関連・依存し、補完し合う全ての生命システムと生物の不可分な共同体からなるダイナミックな生命系」であるとされ、生存権や生命の多様性の権利、水への権利(水循環機能の維持等)、清浄な大気への権利――等が認められている。
■ 国連未来のための協定
国連は、23年に定めた「将来世代に関する国連システム共通原則」で、「将来の世代に焦点を当てるということは、人類だけに焦点を当てるということではない」とした。そのうえで「人類は、生物多様性と天然資源を保護し、プラネタリー・バウンダリーを尊重する持続可能な発展に努める責任がある」としている。
この考え方は、24年9月に開催された「未来サミット」で採択された「未来のための協定」の付属文書にも反映された。
■ 日本の現状と課題
日本では、環境、経済、社会の3要素の統合的な概念を採用している法律は主として環境領域の法律である。統合的取り組みの記述が充実しているといえるのは、環境基本法に基づく「環境基本計画」と、社会資本整備重点計画法に基づく「社会資本整備重点計画」であるが、統合的取り組みの具体的措置は乏しい。
今後、生物多様性と他分野の政策統合に向けて、政策評価制度の改革や持続可能性評価の導入、予算・補助金の仕組み改革、生態系・自然を基礎とする機関の活用――等を論点とすることが重要であろう。
