経団連は10月21日、東京・大手町の経団連会館でバイオエコノミー委員会企画部会(大内香部会長)を開催した。
内閣府科学技術・イノベーション推進事務局の森田健太郎企画官をはじめ、経済産業省、農林水産省、林野庁、厚生労働省、文部科学省から、2024年6月に策定された「バイオエコノミー戦略」のフォローアップ状況について説明を聴くとともに意見交換した。説明の概要は次のとおり。
■ バイオエコノミー戦略のフォローアップ状況と今後の取り組み(内閣府)
バイオエコノミー戦略の策定以降、バイオに関する取り組みは、経済財政運営と改革の基本方針(骨太方針)などの政府の主要文書で、先端科学技術や地方創生をはじめさまざまな分野で位置付けられている。
26年度の概算要求では、ホワイト・グリーン・レッドバイオについて各省から要求が出ているほか、バイオコミュニティ機能強化のため内閣府が独自に予算を要求している。バイオコミュニティは全国8カ所を認定しており、今後の認定に向けた育成枠が2カ所ある。
現在は、次期科学技術・イノベーション基本計画の策定に向けた検討が進んでおり、その内容によってはバイオエコノミー戦略の見直しも必要となろう。
■ バイオモノづくり(経産省)
ホワイトバイオ分野では、グリーンイノベーション基金とバイオものづくり革命推進基金のもと、(1)微生物・細胞設計プラットフォーム育成(2)バイオファウンドリ整備(3)国際標準化やルール形成(4)経済安全保障――の観点から支援し、既存製品の1.2倍程度のコストで社会実装することを目標としている。
市場創出に向けて、バイオ由来製品の政府調達やライフサイクルアセスメント(LCA)評価手法の検討や国際標準化、ブランディングも進めている。
日EU首脳会議での協力継続の確認、英国のバイオインダストリー協会(BIA)とのMOU(覚書)締結など、国際協力も並行して進めている。
技術開発と社会実装を両輪に、各省庁と連携してバイオものづくりを産業化していきたい。
■ スマート農業とフードテック(農水省)
「食料・農業・農村基本法」が24年に施行された。同法に基づく基本計画では、食料安全保障の確保や環境と調和の取れた食料システムの確立等を掲げた。
そうしたなかで、高齢化による農業の担い手不足に対応するため、スマート農業技術を導入していく。スマート農業技術を活用する面積を現在の20%から30年に50%へ拡大する目標を設定した。
24年に施行した「スマート農業技術活用促進法」のもと、技術活用と新たな生産方式を導入しようとする農業者や技術開発と供給を行おうとする者の計画認定制度を設け、融資や税制特例を支援するほか、関係者間のコミュニティ形成を促進するため、多様なプレーヤーが参画する会議(IPCSA)を設置した。
同基本法に基づき25年に策定された「食料・農業・農村基本計画」では、フードテックの促進が明記された。持続可能な食料供給、省人化、食の多様化への対応の3点を目的に、フードテック官民協議会を中心とした連携強化の取り組みに加え、日本発フードテックのビジネス実証、海外展開の支援を行っていく。
■ 木質新素材と無花粉スギ(林野庁)
林業の生産性と安全性の向上の担い手不足の解決に向けて、イノベーションに取り組んでいる。
木質系新素材では、林業の収益性を改善するため、伐採・加工で発生する未利用材を活用し、セルロースナノファイバーや改質リグニン等の新素材を開発している。改質リグニンについては実証プラント建設を進めており、29年以降の市場投入が期待されている。
全く花粉を出さないスギ、いわゆる無花粉スギはゲノム編集によって作成が可能である。現在、効率的な苗木生産手法の開発を進めている。
木材の利用拡大に向けて、板材を直交積層したクロスラミネーテッドティンバー(CLT)に関わる取り組みを進めている。
環境省との連携により、温室効果ガス排出量算定・報告・公表(SHK)制度に木材利用による炭素蓄積変化量が新たに位置付けられた。これで企業が木造建築を建設した場合、その炭素貯蔵量を排出量から差し引くことができる。ぜひ活用してほしい。
■ バイオ医薬品・バイオ後続品の現状(厚労省)
世界市場では、医療用医薬品の売上高上位10品目の大半をバイオ医薬品が占めている。日本国内も同じ傾向にある。海外の大手製薬企業が上位を占めている。
より重大な課題は製造体制であり、国内で販売されているバイオ医薬品の製造はほぼ海外に依存している。その結果、わが国のバイオ関連医薬品は大幅な輸入超過であり、巨額な貿易赤字が生じていることを危惧している。
他方、30年ごろにブロックバスターと呼ばれる売上上位の医薬品の特許切れが相次ぐため、バイオ後続品(バイオシミラー)の製造体制整備が急務だ。厚労省では、前年度補正予算で65億円を投じ、国内製造施設の整備支援を進めている。
■ バイオエコノミー分野の基盤的取り組み(文科省)
ホワイトバイオではカーボンニュートラル(CN)実現に向けたバイオものづくり分野の基盤研究支援、レッドバイオでは再生医療や遺伝子治療などの基礎研究・人材育成の推進、医療系スタートアップ支援を展開している。
バイオバンク利活用促進、創薬研究人材養成に向けて、複数の大学と共同で、薬学教育のカリキュラムの充実や博士課程プログラムの構築に向けた調査研究を進めている。
次期科学技術・イノベーション基本計画の策定に向けた議論では、「AI for Science」を一つの柱に位置付けるよう文科省から提案するとともに、生命現象の解明だけでなく、設計・制御も可能にする科学基盤モデルの開発を推進し、オールジャパン体制で研究革新を目指す。
【産業技術本部】
