清水氏
経団連は2月3日、東京・大手町の経団連会館で経済財政委員会(柄澤康喜委員長、鈴木伸弥委員長)を開催した。イノベーションと経済成長の関係や、イノベーションを軌道に乗せるための考え方について、早稲田大学商学学術院の清水洋教授から説明を聴くとともに意見交換を行った。説明の概要は次のとおり。
■ 経済成長とイノベーション
イノベーションの経済的効果は測定が難しいが、基本的な指標として全要素生産性(TFP)がある。高度成長期の日本ではTFPの寄与が大きく、経済成長を牽引してきた。しかし1990年代以降、日本ではTFPが逆に成長を押し下げる局面も見られるなど、低下傾向にある。ただし、これは日本固有の問題ではなく、米国や欧州諸国でも共通して観察される現象だ。
この要因は、生産性が最も高い企業群が位置する「生産性のフロンティア」に近づくにつれ、先行者の模倣によって生産性を高める「累積的イノベーション」の限界に近づくため、新しい生産性のフロンティアに向かうための「ラディカルなイノベーション」が不可欠になるという構造的な変化を反映している。
■ 日本のイノベーションを巡る状況
日本では経営資源の流動性が低く、不採算事業からの撤退や研究開発の転換が遅れやすい傾向にある。企業年齢と利益率の関係を見ると、日本企業は加齢とともに稼ぐ力が低下しやすい。特許データを用いた分析では、日本企業はもうからなくなっても研究開発の中身を変えにくい傾向が確認できる。
この背景には、人材移動の制約がある。ただし、雇用保護は企業における長期的な基盤的研究を支えてきた側面もあり、一概に否定すべきものではない。
労働の流動性を高めれば、スタートアップを通じた新規性の高いイノベーションは促進されるが、その一方で基盤的な研究の縮小や、イノベーションによって既存のスキルを破壊された人々への負担増が発生し、それらを放置すると格差拡大につながる、といった問題が生じ得る。
米国では、基盤的な研究は国防総省の資金で担っている面があるが、日本では企業が担ってきた。もし企業における基盤的な研究が縮小した場合、大学や国立研究所が受け皿として考えられるが、日本ではそれも縮小している。
■ イノベーション・システムのアップデート
イノベーションを起こすためには、イノベーションに取り組めばもうかり、そうでなければもうからない環境を整えることが重要だ。例えば、スタートアップの参入障壁の撤廃や公共調達への参加を進めるとともに、既存企業が不採算事業から柔軟に撤退できる環境づくりが必要だ。
企業は、生産性の高い分野へ経営資源を移し、研究開発成果を経営戦略に有機的に結び付ける視点を持つべきだ。国には、イノベーションを促進しつつ、その破壊的側面を緩和するため、教育を含めた再分配を実施するといった難しいかじ取りが求められる。
結論として、イノベーションによる創造の果実と破壊のコストを、社会全体でどのようにシェアするかが重要だ。
【経済政策本部】
