経団連総合政策研究所(筒井義信会長)の欧州研究プロジェクト(特任研究主幹=伊藤さゆりニッセイ基礎研究所常務理事)は2月9日、東京大学大学院総合文化研究科の森井裕一教授、フェリス女学院大学の上原良子事業推進担当副学長、東京外国語大学大学院総合国際学研究院の若松邦弘教授を招き、シンポジウム「政権支持率低下に揺れる欧州の政治経済情勢~ドイツ・フランス・英国の現状と課題」を東京・大手町の経団連会館で開催した。
伊藤特任研究主幹、森井氏、上原氏、若松氏による講演の後、伊藤特任研究主幹がモデレーターとなってパネル討議を行った。概要は次のとおり。
■ 2026年の欧州経済(伊藤特任研究主幹)
欧州主要国と日本は、低成長や購買力低下、格差拡大、移民管理といった共通の内政課題に加え、第2次トランプ政権への対応や対中関係の再調整、防衛費増額など通商・安全保障面でも同様の課題を抱えている。
ただし、経済構造や財政余地の違いが対応力の差を生み、ドイツが国防投資を背景に回復を見込む一方、財政制約に直面するフランスや英国では政治的不確実性が高まる。
こうしたなか、右派ポピュリスト勢力の伸長やドイツ・フランスの軍事バランス変化は欧州秩序の不安定化要因となり得る。日本にとっても、防衛費増額と通貨信認の両立は重要な政策課題だ。
■ ドイツ・メルツ政権の政治課題(森井氏)
メルツ政権発足後も、キリスト教民主・社会同盟(CDU/CSU)とドイツのための選択肢(AfD)が支持率で拮抗する状況が続く。中道政党の退潮により、ドイツ社会民主党(SPD)など戦後の主要政党が共有してきた政治コンセンサスは弱体化し、基本法改正に必要な3分の2以上の議席確保も困難となった。
財政規律が基本法に明記されるなか、防衛費やインフラ投資の拡大には制度的制約が伴う。政権は規制緩和や投資促進による経済再建を掲げるものの、効果は限定的であり、州選挙でAfDが勢力を拡大すれば統治の安定性が揺らぐ可能性もある。
■ 動揺するフランス~停滞か、変化への兆候か(上原氏)
フランスはオイルショック以降の長期停滞が続き、製造業の空洞化や地方中小企業の不振が政治的不満を高めている。自動車産業の海外移転も進むなか、マクロン政権は年金改革やスタートアップ支援で構造改革を図るが少数与党で難航している。移民受け入れを巡る社会的対立も深まり、国民連合(RN)や不服従のフランス(LFI)の台頭で政治の三極化が進む。
軍需産業の活況が国内景気を下支えする一方、政府の責任のもとで、議会の採決を経ずに法案の成立を可能とする憲法49条3項を活用した予算成立が常態化し、財政規律と世論の板挟みが続く状況にある。人口動態の悪化に伴う労働力不足への対応も迫られている。27年の大統領選挙が体制再編の焦点となる。
■ 英国の二大政党制はどう崩れるか(若松氏)
英国では依然として保守党と労働党による二大政党制が議会の大半を占める。単純小選挙区制のため、支持率を伸ばす右派ポピュリスト政党「リフォームUK」の議席への反映は限定的で、既存政党の支配構造は維持されている。従来の経済政策軸に加え、価値観やアイデンティティを巡る対立が先鋭化し、既存政党が社会の不満を吸収できない状況も生まれている。
今後は(1)既存政党による新興勢力・価値観の取り込み(2)議会内外に分断された政治構造の継続とリフォームUKの世論形成への影響力拡大(3)中道・新興政党の台頭を契機とした連立政権や比例制導入論の浮上――の三つの展開が想定される。
■ パネル討議
ドイツでの中道政党によるコンセンサス維持とAfD台頭への対応、フランスでのRN躍進と27年大統領選の行方、英国の政党政治の経験を踏まえた日本政治への示唆――について議論が交わされた。
