水野氏
栗崎氏
経団連のサプライチェーン委員会(立石文雄委員長、栗栖利蔵委員長)は2月24日、東京・大手町の経団連会館で、予測AI等によってサプライチェーンリスクを可視化する研究に取り組む、国立情報学研究所の水野貴之教授、早稲田大学政治経済学術院の栗崎周平准教授と懇談した。両氏の説明の概要は次のとおり。
■ 研究の背景
近年、サプライチェーン分析は、生産効率性の追求という従来の目的にとどまらず、経済安全保障や地政学リスク、ESG(環境・社会・ガバナンス)、人権デューディリジェンス(DD)への対応といった社会的要請の高まりを背景に、その重要性を一層増している。
サプライチェーンの分析に当たっては、経済学の手法である産業連関表が用いられる場合が多いが、これは金額ベースのグロスデータで取引を把握するものであり、製品単位でのサプライヤーネットワークを動的に捉えるには限界がある。
これに対し、企業間取引等のミクロデータをAIで解析することで、貿易・投資環境や地政学的緊張といったマクロ構造を浮かび上がらせることが可能となる。生産工程までを射程に入れることで、製品ごとの流れをより精緻に可視化できる点がサプライチェーン研究の特徴だ。
■ 可視化の方法
国外サプライチェーンの可視化は、2段階で可能だ。
第一は、各国の輸出入申告書の連結。例えば、ロシアによるウクライナ侵攻で使用されたドローンに日本企業製のエンジンが搭載されていた事例で、その日本企業は代理店経由の取引のため販売経路の把握は困難と説明していた。しかし、ロシアを含む関係各国の輸出入申告書を突合すれば、迂回輸出の経路を特定することは可能だ。
半導体等の中間財が第三国で加工され、別製品として再輸出されるケースでも、部品・製品・製造技術の情報を学習させたAIを活用することで製品の動きを追跡できる。
第二は、大規模なウェブ検索の収集・結合。例えば、グローバル・バリューチェーンの一大集積地である中国のデータは、サプライチェーン上のリスク把握に不可欠だ。一方で、西側諸国の制裁を回避するために、取引先情報の開示を限定する企業も存在する。
こうした場合でも、取引先企業側の公開情報等をAIで網羅的に検索・収集し、データを結合・分析することで、取引関係を解析することが可能となる。
■ 可視化の意義
デカップリングやデリスキングが求められる昨今、対応を誤れば、自由貿易と保護貿易というアクセルとブレーキを同時に踏む事態にもなり得る。個別具体のデータに基づいてサプライチェーン全体を可視化し、リスク対応の精度を高めることが不可欠だ。
現在、企業はそれぞれコストを負担してリスク把握に取り組んでいるが、今後は日本経済全体でサプライチェーン情報を公共財として共有する「早期警戒システム」を構築することが望ましい。
こうした取り組みは、経済安全保障の確保と自由で開かれた国際経済秩序の維持の両立に資すると期待される。
【産業政策本部】
