ポラセク氏
経団連は3月3日、東京・大手町の経団連会館で通商政策委員会(兵頭誠之委員長、吉田憲一郎委員長、磯野裕之委員長)を開催した。
マルティナ・ポラセク投資紛争解決国際センター(ICSID)事務局長/世界銀行グループ副総裁、大森裕一郎ICSID法務官から、投資家と国との間の紛争解決(Investor-State Dispute Settlement, ISDS)の意義やICSIDによる国際投資紛争の調停・仲裁の実務と最新動向について、説明を聴くとともに意見交換した。説明の概要は次のとおり。
■ ICSID設立の経緯
ICSIDは1966年に世界銀行グループの独立機関として設立された。背景には、1912年に発生した東京市とフランス間の債務問題(注)を、世界銀行が仲介し、60年にデフォルト(債務不履行)を解決した経験があり、これを契機に投資家と国家間の紛争解決を国際的に支援する仕組みが必要と認識された。
ICSIDの創設により、投資家が国家を直接国際仲裁に付すことが可能となり、国内裁判所のバイアスや政治的影響を避けた中立的な紛争解決が実現した。
日本は67年と比較的早期にICSIDへ加盟しており、これまで日本企業が海外政府を相手にICSID仲裁を申し立てた例はあるものの、日本政府がICSID仲裁を訴えられたことはない。
■ 紛争解決の枠組みと手続き
投資紛争は、投資の準備段階から運用段階まで、いかなるタイミングでも生じ得る。政府の許認可の不履行や新法の制定など、契約以外の政策変更も紛争の原因となる。
紛争解決の法的枠組みには、投資契約、各国の投資法(国内法)、二国間投資協定があり、3000以上の条約の存在を踏まえ、どの条約が投資を保護できるかを理解することが重要だ。
紛争解決手段には、直接交渉、調停、斡旋、仲裁と多様な選択肢がある。なかでもICSIDにおける仲裁は強力な執行メカニズムを持ち、最終判断は国内裁判所を介さず加盟国で自動的に執行できる。
他方、仲裁手続きはコストが高く時間もかかるため、実際には約3分の1が判断前に和解している。東南アジアおよび太平洋地域の国に対する事件のみを対象とすれば、この割合は40%だ。
ICSIDは未加盟国にも利用可能な追加ファシリティを持ち、ミャンマー、インド、タイのような非加盟国が相手でも、条件が整えば仲裁を申し立てられる。
■ 日本の投資家とICSID
日本企業の例として、日揮ホールディングスがスペイン政府の再生可能エネルギー政策変更に対してエネルギー憲章条約に基づいて提訴した事例があり、最終的に2300万ユーロの賠償が認められた。
ICSIDは2022年から調停手続きも整備している。1~2人の調停人が当事者の合意形成を支援し、非公開、迅速、低コストで紛争を解決できる点が利点だ。
日本は80以上の国・地域と投資協定を結んでおり、これらは重要なセーフガードとして機能する。他方、日本をはじめアジアではまだ投資紛争ケースが少ないのが実態だ。
今後、調停の活用やICSIDの認知向上が期待される。企業が紛争解決の選択肢をより積極的に活用できる環境を整えていくことが重要だ。
(注)東京市がフランスで発行した外債を巡り発生した大規模な国際紛争。第1次世界大戦や戦後の世界不況等により東京市の返済額が急増したことで、長きにわたりデフォルト状態が継続した
【国際経済本部】
