尾形氏
経団連は3月3日、東京・大手町の経団連会館で、雇用政策委員会人事・労務部会(直木敬陽部会長)を開催した。部会の研究テーマ「若年社員のさらなる活躍推進」に関連し、甲南大学経営学部の尾形真実哉教授が「若年就業者の定着と成長を促すオンボーディング」と題して講演した。概要は次のとおり。
■ 若年社員の組織適応を支える
若年の労働力人口の減少が特に進むなか、企業にとって若年社員をマネジメントし、力を発揮してもらうことは重要な課題であり、人事施策の枠を超えた重要な組織能力として注目されているのがオンボーディングだ。
オンボーディングとは、新たに組織に加わった個人の円滑な適応を支援するもの全てを指す概念で、「組織になじませる力」といえる。
効果的なオンボーディング施策を講じるには、新入社員(経験者採用を含む)がどのような適応課題に直面するのかを理解する必要がある。このうち、新卒採用者に特有の課題が「リアリティ・ショック」だ。
■ リアリティ・ショックの多面性の理解
リアリティ・ショックとは、入社前に抱いていた期待や理想と、実際に入社した後に生じる心理的なミスマッチのことだ。新卒採用者の組織適応課題とも称される。
企業には、次に挙げるショックの対象、構造、質それぞれの多面性を理解することが求められる。
一つ目は、ショックの対象が個人の価値観に左右され、多岐にわたること。若年社員がどのような点でショックを受けているのか、継続的にデータとして蓄積し、それを把握することが重要だ。
二つ目は、ショックの構造が、理想が崩れる「従来型」に加え、ホワイト過ぎる環境に「肩透かし」を受けるケースや、想定以上の過酷さに直面する「専門職型」など、近年多層化していること。構造に応じて、事前情報の提供、伴走支援の要否など、講じるべき施策も当然変わることを認識する必要がある。
三つ目は、ショックの質とは、直面した出来事を「自力で乗り越えられるか」「成長につながるか」と解釈する度合いによって判断すべきということ。
たとえ厳しい経験であっても、自分の将来像と結び付けて捉えることができれば、組織への適応は進む。一方で、「事前に聞いていた内容と違う」など負の感情を伴う場合には、組織への愛着や信頼が急速に低下する。
人事と職場は、新入社員らに生じ得る、言語化しにくい違和感を丁寧に拾い上げ、感情面から支える体制を整えるべきだ。
■ オンボーディングを成功に導く五つの提言
リアリティ・ショックへの理解を踏まえ、入社後のオンボーディングを成功に導くため、五つの提言をしたい。
第一は「配属の意義転換」。欠員の「補充」ではなく、育成能力の高い管理職がいる職場に新卒採用者を配属することで、「育成」の観点に転換する必要がある。
第二は「効果的な研修のデザイン」。若年社員に対し、誰もが直面するリアリティ・ショックへの対処行動の理解促進を図るとともに、環境への主体的な適応を促す「プロアクティブ行動」の知識の伝授が重要だ。
特に、手厚い支援が途切れ、不安が高まりやすい「2年目の憂鬱」を乗り越えるためには、後輩との比較によるプレッシャーなど、2年目の適応課題に対応した継続的なサポートと研修の実施が不可欠だ。
第三は「よいメンターの提供」。メンターの選定は年齢の近さではなく、メンター本人の資質や育成への熱意などを重視すべきだ。
第四は「チーム育成(協育)」。育成会議などを通じて若年社員の状況を職場全体で共有し、チーム一丸で育成する意識の醸成が重要だ。
第五は「環境整備」。ロールモデルとして先輩社員が生き生きと働く環境の整備とともに、職場デザイナーとして上司が活躍可能な育成やサポートをすることが重要だ。
組織の環境整備と若年社員の努力を掛け合わせ、オンボーディングを組織的にデザインしていくことが、成功の肝だ。
【労働政策本部】
