桜井氏
経団連は3月10日、東京・大手町の経団連会館で生活サービス委員会企画部会(山本ひとみ部会長)を開催した。獺祭の桜井一宏代表取締役社長から「現代だからこその伝統的なモノ造り」をテーマに、同社の取り組みを聴いた。概要は次のとおり。
■ 高付加価値戦略の背景
獺祭は山口県岩国市周東町の人口20人ほどの集落に位置する酒蔵であり、前身の酒蔵を含めると、約200年にわたり酒造りを続けてきた。現在は売り上げ200億円規模へと成長し、日本酒の輸出でも大きな存在感を示している(図表参照)。
(図表のクリックで拡大表示)
かつては山口県内でも「負け組」と呼ばれた酒蔵であり、普通酒を中心とした低価格商品の酒造りを行っていた。日本酒市場全体が縮小するなか、地元市場での競争は厳しく、従来のやり方では生き残れない状況にあった。
そこで、酒米「山田錦」を使用した純米大吟醸に特化し、高品質・高付加価値の商品として展開する戦略へと転換した。販売の中心も地元ではなく東京の市場とし、都市部の高付加価値市場でブランドを確立することを目指した。
こうした取り組みにより、東京での評価を起点として全国へ販路を広げる形で成長してきた。
■ データを活用した酒造り
酒造りは従来、杜氏の経験や勘に大きく依存してきたが、杜氏が退職したことを契機に社員主体の製造体制へ移行した。これにより、酒造りの工程のデータを分析・管理する仕組みが整備された。
現在では発酵タンクの温度や酒米の溶解度、アルコール度数などを全て記録し、製造工程を可視化して管理している。年間約3000回の仕込みを行い、試行と検証を高速で繰り返すことで品質向上を図っている。
こうした取り組みにより、酒造りは経験だけに頼るものから、データに基づいて継続的に改良するプロセスへと変化した。常に改良を重ねながら進化していく酒造りを目指している点も特徴だ。
■ 海外市場開拓
海外市場の開拓も重要な柱だ。日本酒の消費量は世界のアルコール市場のなかでは依然として小さく、米国でも約0.2%程度にとどまる。一方、日本食への関心の高まりなどを背景に、成長の可能性は大きい。
こうしたなか、米国・ニューヨークに酒蔵を建設し、日本と同様の製法で酒造りを行う取り組みを進めている。
海外の著名シェフとの連携によるレストラン展開や試飲イベントを通じて、日本酒を体験する機会の拡大にも努めている。
■ 今後の展望
宇宙空間での酒造りに挑戦するなど、新たな価値創出にも取り組んでいる。
酒米の生産者を対象としたコンテストを開催し、優れた酒米を高価格で買い取る仕組みを設けるなど、酒米の安定確保と高付加価値商品の開発にも力を入れている。
こうした挑戦を通じ、日本酒をワインやシャンパンと競合する存在として世界に広げていくことを目指している。
伝統産業でも、データや技術を取り入れながら進化を続けることで新たな価値を生み出すことができる。今後も日本酒の可能性を世界へ広げる挑戦を続けていく。
【産業政策本部】
