山本氏
経団連は3月24日、東京・大手町の経団連会館で消費者政策委員会企画部会(楯美和子部会長)を開催した。デジタル社会で拡大するアテンション・エコノミーの課題と対応について、慶応義塾大学法科大学院の山本龍彦教授から説明を聴くとともに意見交換を行った。説明の概要は次のとおり。
■ 自律的な意思決定を奪うアテンション・エコノミー
アテンション・エコノミーとは、情報過多の時代において希少資源となった人々の時間や関心(アテンション)を、サービスを利用する対価として支払う構造のことだ。
その対価たる関心をより大きく得ようと、ショート動画のようなSNSのUX(ユーザー・エクスペリエンス)やAIレコメンド機能は、ユーザーの直感的・反射的な思考を刺激し、逆に熟考や理性的思考を阻害する方向に設計されている。
直感的な刺激により「ついスワイプしてしまう」行動が積み重なることで、本人の意図とは異なる方向に意思決定が誘導される危険がある。アルゴリズムに「決めさせられる」ことによって、「人間は自律的に意思決定する存在」という近代以降の前提が揺らいでいる。
生成AIは、対話型AIとの問答によって深く考える側面があることから、当初は理性的思考を促すと期待された。しかし、アテンション・エコノミーの構造に取り込まれ、偏りや誤りを含む情報をもたらすことによって、個人の認知プロセスをゆがめるリスクも高まっている。
■ 民主主義への影響
アルゴリズムによる誘導が個人の自己決定に与える影響は深刻であり、この構造が行きすぎると、民主主義にも重大な影響を与える。
自分の嗜好に合った情報のみが表示される「フィルターバブル」や、同じような価値観や意見が反響することで特定の考えを信じ込んでしまう「エコーチェンバー」により、極端な思考が強化され、社会の分断を招く。
アテンションを集める誹謗中傷や偽情報は拡散しやすくなる。個人がこのような状況から抜け出すことは難しく、民主主義の根幹である、多様な意見に触れる「知る権利(自由)」が実質的に制約される。
■ 「情報的健康」が支える健全な情報社会
偽誤情報等の場合、個別削除は実効性に乏しく、厳しい法規制は検閲の危険を伴う。
そこで、情報の偏食や暴飲暴食を避け、情報の出所や生成過程を可視化し、その真正性や安全性を意識することで偽誤情報への免疫力を高める「情報的健康」という考え方が重要になる。情報を摂取することと食べ物を摂食することとのアナロジーは、世代横断的に理解されやすい。
過度な規制に頼らずに、情報的健康に配慮する企業等が選ばれる市場メカニズムのなかで情報空間の健全性向上を図ろうとするものであり、これには消費者教育が不可欠だ。
現在、プラットフォーム事業者のなかでも、アテンション・エコノミーに依存したサービス設計を進める企業と、ユーザーの情報的健康に配慮する企業との二極化が生じつつある。
広告業界でも同様であり、情報的健康に配慮したコンテンツに企業が広告を付ける取り組みが広がれば、情報空間の健全性は劇的に改善される可能性がある。これは、人権や子どもの保護とも深く関わっており、SDGsやESG(環境・社会・ガバナンス)投資といったテーマと結び付けて考えることも重要だ。
【ソーシャル・コミュニケーション本部】
