経団連は5月18日、東京・大手町の経団連会館で熱中症防止対策セミナーを開催した。
厚生労働省労働基準局安全衛生部の諸冨伸夫労働衛生課長から職場における熱中症防止対策の説明を聴いた。
産業医科大学の堀江正知学長からは「熱中症の発生機序と予防策」と題した講演を、クボタ筑波工場の加部勇産業医からは同社の熱中症対策事例を聴いた。
概要は次のとおり。
■ 今夏の職場における熱中症対策(諸冨氏)
近年、職場における熱中症の労働災害が増えている。このため2025年に労働安全衛生規則を改正し、熱中症の恐れがある作業者を早期に発見するための体制整備、熱中症の重篤化を防止するための措置手順の作成、関係者への周知を事業者に義務付けた。
夏季の気温が高かったこともあり、25年の休業4日以上の死傷者数(速報値)は前年比で増加したが、死亡者数は前年比で半減し、改正省令の効果が一定程度見られたと考えられる。
実際に労働災害が発生した事業場は、改正省令に基づく措置が不十分な傾向があり、改正省令の徹底が重要になる。
26年3月、職場における熱中症防止のためのガイドラインを公表した。このガイドラインの目的は、職場における熱中症防止のための具体的方法を、企業がその業種・業態に応じて適切に選択して取り組むよう促すことを通じ、職場における熱中症防止を図ることだ。
企業には、湿球黒球温度(WBGT)の値の把握などにより熱中症リスクを把握・評価したうえで、作業環境管理、作業管理、健康管理、労働衛生教育など、熱中症リスクに応じた適切な対策をお願いしたい。
厚労省は、中小企業の高年齢労働者向けの熱中症対策費用を支援する「エイジフレンドリー補助金事業」を展開している。引き続き熱中症対策を推進していく。
■ 熱中症の仕組みと予防策(堀江氏)
近年、日本はどんどん暑さが増している。
人は暑いとき、血流増加や発汗によって体内の熱を放散する。汗のかき始めは水分の比率が高いが、汗を多くかくと塩分の再吸収が間に合わなくなる。水分のみを摂取しても、体内の濃度を保つために脱水してしまうので、大量発汗時は水分と塩分を摂取すると良い。
高齢になるほど暑さを知覚しづらく、汗もかきづらくなるため、高年齢労働者の熱中症対策は重要だ。
企業の現場における熱中症の原因として、主に(1)高温・多湿な環境(2)身体の負荷(3)作業時間(4)作業服――が挙げられる。
「いつもより作業が遅い」など、労働者の細かな兆候が熱中症の早期発見につながる。熱中症対策の方法は、屋根やパラソルで日陰をつくる、作業服に冷風や冷水を送る、アイススラリー(氷粒と液体が混ざった流動性のある飲料)を摂取する、職場の休憩時間に下肢を冷却するなど、さまざまなものがある。
企業は熱中症の関係法令やガイドラインも参照し、熱中症のリスクに応じて、作業環境管理や作業管理、健康管理、労働衛生教育、異常時の措置といった熱中症対策に取り組んでほしい。
■ 製造業の熱中症対策(加部氏)
当社の筑波工場は、主にトラクターやエンジンを製造している。100形式以上のモデルを生産しており、作業者の手作業が多く、熱中症対策が急務だった。
そこで熱中症のリスクアセスメント(測定)を工場全域で実施し、優先順位を付けて改善に取り組んだ。
例えば、社員証をかざすことで飲み物を取り出せる「フリーベンダー」を導入したところ、多くの労働者が積極的に水分・塩分を摂取するようになった。工場の周囲を整備し、工場全域に大型の空調設備も導入した。
この他、希望する労働者に身体冷却用の作業服等を提供するなど、さまざまな熱中症対策に取り組んでいる。
過去の発災事案としては、例えばトラックから部品を荷降ろしする現場で、部品が傷付かないように手作業を増やしたところ、熱中症が発生した。
そこで、(1)大型ファンの裏側に氷を入れて冷風を送る(2)休憩できる空調ユニットハウスやテントを設置する(3)身体冷却用のシートやアイススラリーを提供する――などに取り組んだ結果、24年から2年連続で熱中症が0件になった。
熱中症対策の分かりやすい解説動画を作り、労働者参加型の学習機会も提供している。当社では現場に根差した熱中症対策を進めている。
【労働法制本部】
