経団連は5月29日、東京・大手町の経団連会館で、経済安全保障とM&Aセミナーを開催した。
企業買収を巡り経済安全保障の観点を踏まえた企業の対応をテーマに、元国家安全保障局長で北村エコノミックセキュリティCEOの北村滋氏、西村あさひ法律事務所・外国法共同事業の太田洋弁護士がそれぞれ講演し、意見交換を行った。講演の概要は次のとおり。
■ 企業支配権市場における経済安全保障の視座(北村氏)
日本の強みである技術をはじめとする無形資産が市場で過小評価されていることは、近年、外資が日本企業を買収する最大の動機だ。経済安全保障の観点からの規律が以前にも増して多様な企業活動に影響を及ぼしているが、外国為替及び外国貿易法(外為法)の一本足では日本企業を守りきれない。
経済安全保障は、企業の法務・総務部門が追加タスクとして処理するだけでは不十分だ。取締役会の理解のもと、投資家との対話や取引先への共有を図ったうえで、自社のM&A方針や資本政策に織り込むなど、企業経営の基本設計にビルトインする必要がある。
政府は今後、対日外国投資委員会(日本版CFIUS)の創設を予定している。その最大の機能は、該非審査の前提となる情報の集約だ。
しかし企業でもM&Aを行う際は、買収提案者への資金の流れを見抜くインテリジェンス機能の強化が必要だ。同盟国の資本であっても必ずしも安全とはいえず、特にファンドによる投資には最終的に利益が還元されるエグジット先を含む管理が重要だ。
規制だけでなく、支援と救済も重要だ。今後は、経済安全保障の観点で安全な資金を集める民間ファンドの組成や、経済安全保障上の経営課題に関する専門的なコンサルティングが重要な役割を果たすだろう。
経済安全保障の観点からは、国家も企業の重要なステークホルダーと位置付ける必要があり、引き続き経済安全保障に関するさまざまな法制度や施策の整合が求められる。
■ M&A実務における経済安全保障対応の最前線(太田氏)
M&Aの判断基準である企業価値は、日本の企業法制においてステークホルダー全体の利益や中長期的視点を含む概念と位置付けられてきた。企業買収指針の補足説明文書でも明らかにされているとおり、近年は経済安全保障上の要素を企業価値の評価にも組み込む方向にある。
日本の外為法に基づく対内直接投資規制は特に2019年以降は制度強化が進み、日本政府による介入手法も多様化している。
中止命令にまで至ったのは、英投資ファンドのザ・チルドレンズ・インベストメント・ファンド(TCI)対電源開発(Jパワー)の事例(08年)以外はないものの、水面下では規制機関との事前協議段階で断念に至る事例が一定数存在している。
審査期間の長期化、懸念がある場合における拘束力のある条件付き承認の増加、指定業種の範囲の拡大等もみられる。
5月29日に成立した改正外為法により、日本版CFIUSの創設のほか、事前届け出規制および事後規制の強化が図られるなど、日本の規制は諸外国と比較しても概ね遜色のない水準に近づいた。
ただし分散投資を行う受動的な機関投資家を念頭に設計された登録外国金融機関の包括免除制度は、現状、アクティビストファンドにも適用されているため、今後見直しが必要となる可能性がある。
企業には経済安全保障デューデリジェンス(DD)を実施し、(1)自社事業の指定業種(特にコア業種)への該非の正確な把握(2)最終受益者を含む買い手側の属性分析――といった実務対応が求められる。
M&A契約を交わす際の工夫に加え、運用体制や人的側面への対応、規制機関との戦略的コミュニケーションも重要だ。
【ソーシャル・コミュニケーション本部】
