桃井氏
経団連は6月5日、東京・大手町の経団連会館で中国委員会企画部会(鈴木健史部会長)を開催した。
日本経済新聞社の桃井裕理ニュース・エディター兼国際報道センター長(前中国総局長)から、米中関係の行方と日本の課題について、説明を聴くとともに意見交換した。説明の概要は次のとおり。
■ 米中首脳会談の本質
今回の米中首脳会談は大きな成果に乏しかったが、これは想定内だ。会談の目的は合意形成ではなく、対立の激化を避け、両国関係を維持・管理することにある。
注目すべきは、トランプ米大統領の訪中直後にロシアのプーチン大統領が訪中し、中ロ会談では共同宣言が発表された一方、米中間ではそれがなかった点だ。
両首脳の歓迎式典がほぼ同様に演出されたことは「米国は別格ではない」というメッセージを示すもので、米国一極支配の揺らぎを印象付ける外交的シグナルといえる。
■ 中国のOS転換構想
習近平国家主席は、多極化世界の実現を明確に志向している。
その背景には、中華思想や中国共産党への強い信仰に加え、現行の世界秩序を西側主導で不公平なものと見なす認識がある。米国による体制転覆への危機感も抱いている。
習主席の掲げる政治的目標である「共産主義の完成」「台湾統一」「中華民族の復興」は、いずれも現行秩序との摩擦を伴う。こうした認識のもと、既存の世界構造そのものの変革が必要との発想に至っている。
中国の狙いは、単なる外交戦略にとどまらず、石油、米ドル、米国の安全保障に支えられた「ペトロダラー体制」という世界の基本ソフト、いわばOSに代わる新たな仕組みの構築だ。
その戦略の中核の一つが電力だ。中国は再生可能エネルギーを段階的に主電源へと引き上げ、2021年には「新型電力システム」を提起した。これは再エネ主体への転換の節目となった。高圧送電網や大規模蓄電池、AIによる需給最適化により安定した電力供給体制を構築しつつある。
26年には電力、AI、データセンターを統合する「算電協同」を打ち出し、エネルギーとデジタルの融合を加速させている。コストの大幅な低下と巨額のインフラ投資を背景に、中国は電力を軸とした新たな世界秩序のなかで将来的な優位の確立を狙っている。
これは単なるエネルギー政策ではなく、「石油の世紀」から「電力の世紀」への転換を通じ、分散型で多極的な世界構造を生み出す試みだ。
■ 日本の対応策
日本のGDPが世界に占める比率は低下の一途をたどっており、それに伴う世界での発言力低下は避けられない。日本が存在感を維持するには技術力を基盤とした経済力を伸ばす以外に道はない。
欧州、東南アジア、インドを含む地域戦略を再構築する必要がある。中国の技術と競争するだけでなく、中国が弱く日本企業に強みのある分野で中国と第三国での協調を図る選択肢もある。
海外展開する中国企業や人材ネットワークを含む「中国以外の中国」にも注目し、中国を越境的なネットワークと捉えることは新たなチャンスとなり得る。
総じて習政権は、長期的な視点で世界構造の転換を着実に進めている。日本としては、その戦略を的確に読み取り、彼らが描く将来の絵図から逆算した対策を官民一体で講じることが求められる。
【国際協力本部】
