宮家氏
経団連は7月17日、東京・大手町の経団連会館でアメリカ委員会(澤田純委員長、佐藤恒治委員長、森田隆之委員長)を開催した。キヤノングローバル戦略研究所の宮家邦彦理事・特別顧問から、米中を中心とする国際秩序の変容と日米関係の今後のあり方について説明を聴いた。概要は次のとおり。
■ 国際情勢の展望
国際情勢はストーリーのある長編動画のようなものだ。これを理解するためには、静止画を見るだけでは不十分で、歴史を学ばなければならない。
この観点から考えると、現在の世界は「グレートゲーム・パート3」に入りつつある。グレートゲームとは、19世紀の英国とロシア帝国による中央アジアを巡る覇権争いを指す。
その後、米ソ間の冷戦という「グレートゲーム・パート2」を経て、今後は米中競争を中心とした「グレートゲーム・パート3」に入るだろう。
1945年から続いた予見可能性が高い時代は、一休みの時期に入ったと言えよう。これまでわれわれが築いてきた国際秩序は、今後大きく変化するだろう。
■ 米国のトランプ現象
90年代以降、「市場原理を徹底すれば効率性が高まり、経済全体が豊かになる」という新自由主義的な資本主義が米国から世界に広まった。
しかし、この恩恵は一部の人にしか及ばなかった。米国では格差が拡大し、都市部以外に住む白人ブルーカラー層は「忘れ去られた人々」となった。彼らの怒りや不満を受け止めたのは、トランプ大統領だった。2024年の大統領選挙でトランプ氏が勝利した選挙区は、製造業が衰退した地域と重なっている。
この「トランプ現象」は、米国社会の構造的問題を背景としているため、トランプ大統領退任後も継続するだろう。
■ 米中関係と日中関係
中国の行動原理は、アヘン戦争で味わった屈辱の克服という歴史観に根差している。いま中国は、この長年の目標が実現可能な段階に入ったと考えているだろう。
しかし、中国は米国との戦争は望んでおらず、米国に対して、大国としての中国の地位を認めさせ、対米関係を安定させたいと考えているだろう。ただし、両国は価値観を共有していないため、米中による「G2論」は成立しない。
中国にとっては米中関係が最重要で、その結果として日中関係が決まる。すなわち、日中関係は米中関係の従属変数だ。米中関係が良好なとき、中国にとって日本の重要性は低下する。日中の和解は、短期的には難しいかもしれない。日本は十分な抑止力を維持しながら、中国と対話していくことが重要だ。
■ 対米投資大戦略
こうしたパラダイムシフトは、危機であると同時にチャンスでもある。日本の人口減少を考慮すると、今後10~20年程度が、日本の努力が結実する最後のチャンスかもしれない。国際情勢の変化を踏まえ、われわれは経済合理性だけでなく、戦略合理性も考えなければならない。
日米は再び運命共同体として行動する時代が来る。日本だけでは中国を抑止できず、米国も日本なしでは中国を抑止できない。インド太平洋は歴史的に米国にとって重要な地域だ。
以上を踏まえると、日本企業の利益につながると同時に、米国の製造業の強化、日米同盟の強化にも資する、新しい形の戦略的投資が必要だ。米国の産業基盤をうまく活用し、日本の産業競争力を高める投資戦略を構築すべきだ。これが、私が考えるトランプ時代の対米投資大戦略だ。
【国際経済本部】
