ナカノ氏
経団連は10月6日、東京・大手町の経団連会館で国際エネルギー情勢に関する講演会を開催した。米国のシンクタンク、戦略国際問題研究所(CSIS)のエネルギー安全保障・気候変動プログラムのジェーン・ナカノ シニアフェローから、中東情勢を踏まえたエネルギー安全保障、米国のエネルギー政策の方向性などを聴いた。概要は次のとおり。
■ エネルギー安全保障
ホルムズ海峡の事実上の封鎖は、世界の石油・液化天然ガス(LNG)貿易量の約20~25%に影響を及ぼし、世界の石油・ガス価格が上昇している。
カタールのLNG液化設備の一部も攻撃を受けて損傷するなど、石油・ガスの生産・輸送インフラにも影響が広がっている。そのため、中東情勢が安定化し、海峡の通航が正常化しても、エネルギー供給リスクが直ちに解消されるとは限らない。
国際エネルギー機関(IEA)はエネルギー安全保障を「エネルギーを合理的な価格で継続的・安定的に利用できること」と定義している。
経済力の限られた国にとっては、エネルギーへのアクセスは物理的な供給の確保だけでなく、価格による制約にも左右される。今回の危機は、エネルギー安全保障の意味をあらためて問い直している。
■ エネルギー転換
日本を含むアジアや欧州では、当面のエネルギー確保のため石炭火力の活用を一時的に拡大している。他方、クリーンエネルギー技術には、脱炭素化のみならず、エネルギー供給源の多様化や安全保障の強化という利点がある。
今回の危機を契機として、クリーンエネルギーの導入がさらに進む可能性がある。実際、米国をはじめ各国で電動車の販売が拡大しており、各国政府も電動車やヒートポンプの導入支援策を強化している。
■ 中国の動向
中国では、2025年に電気自動車(EV)の販売台数がガソリン車を上回ったほか、同年の風力・太陽光発電の新規導入量は430ギガワットに達し、日本の総発電設備容量を上回った。風力・太陽光の発電容量は全体の6割に達するものの、依然として石炭火力が実際の電力供給の6割を占めており、化石燃料への依存も続いている。
今回の中東危機でオイルショックのような事態を回避できている要因の一つは、中国による原油輸入の抑制だ。豊富な石油備蓄や国内生産力の強化を背景に、海上輸送による原油輸入を開戦前と比較して約4割削減している。
ただし輸入抑制の継続は難しくなっている。今後、中国が調達拡大を進めれば、資源獲得競争が激化する可能性がある。
■ 米国のエネルギー政策
米国には、豊富な石油・天然ガス資源を成長と競争力の基盤と捉える立場と、クリーンエネルギーを成長や雇用、国家安全保障の基盤と捉える立場が存在する。
バイデン前政権は、インフレ抑制法などを通じ、脱炭素化と国内産業競争力の強化を一体的に推進した。一方、トランプ政権はクリーンエネルギーに対する優遇措置を大幅に削減している。もっとも、重要鉱物、原子力、次世代地熱などの分野では、超党派の支持が比較的安定している。
注目すべきは、米国政府による市場への直接的な関与の拡大だ。米中競争の激化を背景に、産業政策や政府の市場関与を巡る共和党・民主党の立場は、一部で近づきつつある。
ホルムズ海峡を巡る情勢やエネルギー転換、米中競争を背景に、エネルギー地政学は大きく変化している。不確実性は高まっているものの、エネルギー安全保障の強化やクリーンエネルギー分野への投資拡大など、新たな投資機会も存在する。
【環境エネルギー本部】
