丸川氏
経団連は10月9日、東京・大手町の経団連会館で中国委員会企画部会(鈴木健史部会長)を開催した。
東京大学の丸川知雄社会科学研究所教授から、人工知能(AI)および半導体を中心とした中国のハイテク産業政策について説明を聴くとともに意見交換した。説明の概要は次のとおり。
■ 産業政策の変遷
中国では2014年の「国家IC産業発展推進綱要」を皮切りに、半導体産業の育成が本格化した。15年の「中国製造2025」では、技術ロードマップのなかで国産化率目標などが示され、半導体分野の発展が重視された。17年には「新世代人工知能発展計画」が策定され、AI関連産業の育成方針が打ち出された。
中国の産業政策は抽象的な目標が多く、成果との関係を検証しづらい面もある。実際、現在のAIブームの中核を担う生成AIについては当時の計画で言及されておらず、重要な技術進化を十分に見通せていなかった側面もある。
■ 破壊的イノベーション
生成AI分野では、25年にディープシークが発表した低コストで高性能のAIモデル「V3」、26年にはムーンショットAIのAIモデル「Kimi K3」が大きな話題となった。両者に共通するのは、それまで広く知られていなかった企業が高性能モデルを投入し、市場に大きな衝撃を与えた点だ。
こうした現象は、既存の有力企業の地位を揺るがす「破壊的イノベーション」の典型例といえる。生成AI市場は競争が極めて激しく、企業の順位も短期間で変動する。現状では米国企業が依然として優位に立っているが、中国企業は低コストを武器に存在感を高めている。
■ 半導体政策の実態
中国の半導体政策については、「巨額補助金による育成」と理解されることが多いが、実態はやや異なる。国家集積回路産業投資基金は助成金ではなく投資ファンドであり、資金回収を前提として運営されている。
ファウンドリーやメモリー産業の育成には一定の成果を上げてきたが、現在AI用半導体分野で存在感を高めるGPU(画像処理装置)メーカーはいずれも投資対象ではなかった。
政府が将来有望と判断した企業と、実際に市場で成長した企業との間には一定のずれが見られる。中国の半導体産業は発展したものの、その成果を政府の先見性で説明することはできない。
米国の輸出規制を受け、中国ではAI用半導体の国産化が加速した。ファーウェイやカンブリコンをはじめとする企業が代替製品の開発を進め、中国独自のAI半導体エコシステムが形成されつつある。
単体のチップ性能ではなお米国勢が優位にあるが、中国勢は多数のチップを接続するシステム設計などを通じて競争力向上を図っている。
中国のAI・半導体産業政策は一定の成果を上げている一方、重要な技術変化を見落としていた側面もある。
産業政策を成功か失敗かの二元論で評価することは適切ではない。それでも、生成AIやAI用半導体分野では新興企業が次々と登場し、激しい競争が続いている。中国のAI産業は政府主導だけではなく、市場競争や民間企業の活力によって発展している点にも注目する必要がある。
【国際協力本部】
