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月刊 経団連 トライ・アンド・エラー
迷いながら進むことで道が開ける感覚

JOINnovator! ─DE&Iを楽しむイノベーターたち
永山 祐子
建築家
Yuko Nagayama
1975年東京生まれ。1998年昭和女子大学生活科学部生活美学科卒業。1998~2002年 青木淳建築計画事務所勤務。2002年永山祐子建築設計設立。2020年から武蔵野美術大学客員教授。
主な仕事「LOUIS VUITTON 京都大丸店」「丘のある家」「カヤバ珈琲」「木屋旅館」「豊島横尾館(美術館)」「渋谷西武AB館5F」「女神の森セントラルガーデン(小淵沢のホール・複合施設)」「ドバイ国際博覧会日本館」「玉川髙島屋S・C 本館グランパティオ」「JINS PARK」など。
ロレアル賞奨励賞、JCDデザイン賞奨励賞(2005)、AR Awards(UK)優秀賞(2006)「丘のある家」、ARCHITECTURAL RECORD Award, Design Vanguard(2012)、JIA新人賞(2014)「豊島横尾館」、山梨県建築文化賞、JCD Design Award銀賞(2017)、東京建築賞優秀賞(2018)「女神の森セントラルガーデン」、照明学会照明デザイン賞最優秀賞(2021)「玉川髙島屋S・C 本館グランパティオ」など。現在、東急歌舞伎町タワー(2023)、東京駅前常盤橋プロジェクト「TOKYO TORCH」などの計画が進行中。
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2002年に建築家として独立し、一般の住宅から超高層建築まで、国内外で様々な建築プロジェクトに携わってきました。建築は、たくさんの人々と一緒になって1つのものを作り上げるものです。文化的な背景や価値観が異なる人との協働作業なので、DE&Iを意識する機会が多く、いろいろな専門分野の方々やクライアント、職人の皆さんと共に真剣に作り上げる中でたくさんのことを学んできました。

多国籍の関係者にコンセプトを共感してもらう

2022年のドバイ国際博覧会(ドバイ万博)では、日本館パビリオンの建築を手がけました。このプロジェクトは、世界各国の関係者が国境を越えて関わる大きなものでした。ドバイ万博のテーマは「Connecting Minds, Creating the Future 心をつなぎ、未来を創る」。日本と中東のこれまでのつながりを活かしながら未来を創っていくことを意識しながら設計しました。国家プロジェクトであり、多国籍の関係者に、こうしたコンセプトを広く共感してもらえるよう、分かりやすい言葉で表現するということを意識し、早い段階から、コンセプトや目指すべき姿の形をカチッと作って、明確な目標を立てられたのは良い経験だったと思います。

国を越えた共通感覚を日本的で繊細な表現で形にする

私たち人間には、自然の風や光、水のゆらぎといった、言葉で説明しなくても、感覚的に共感できて理解できる共通の要素があると思います。そうした要素を空間性のコンセプトとして大事にしました。国を越えて感じられるものを、日本的で繊細な表現で形にしたかったのです。世界のどこででも手に入るグローバルな素材を意識的に使い、その中で日本らしさを表すように心掛けました。水や風や光といったものを表現する方法は国によって異なり、その扱い方には微妙に差があるのです。その中で日本らしさを保ちながら、しかも世界の人々に共有してもらえる感覚のようなものに訴え掛けてみたいと思っていました。

具体的には、中東の幾何学(ジオメトリー)パターンのアラベスク文様と、日本の幾何学パターンである麻の葉文様に共通項を見出し、そこに折り紙の要素も盛り込んで、ファサード(建物正面の外観)のデザインに取り入れてみました。ファサードは、見る角度によって違う幾何学パターンが現れるようにしました。ある1点から見ると、伝統的な麻の葉模様なのですが、少し斜めから見ると、違う幾何学模様が浮き出てきて、その中に中東的なジオメトリーに通じる複雑な模様が見えてくるようにしてみました。そもそもジオメトリーやパターンは、文化の中で育まれるものなのです。今回文化的背景を持つ2つのパターンの「つながり」に光を当てるようにしました。

個人の思いをいろいろな人が共感すれば前に進める

実は、この建物の大切なコンセプトである「水」は、予算の関係で一度取りやめになりました。その後、応援してくれる人たちのおかげで、JAPAN CREATIVE BOOSTERという協賛組織が生まれ、最終的には「水盤」を実現できました。個人の思いをいろいろな人が共感すれば、前に進めるという希望を感じた瞬間でした。中東は、水資源がとても少ない土地ですが、それでも一生懸命オアシスを作り、人間が快適に暮らせる場所を育んでいます。そこでは、海水を淡水化する重要な技術が活用されていて、日本の技術が以前から使われています。そのようなところでも、中東と日本は様々な形でつながっています。1つの建築を通して、こうしたつながりを表現してみたいと思っていました。

また、パビリオン建設の工法としては、ボールジョイントというグローバルに通用するシステムを選びました。というのも、実際に建設に携わるのは、スリランカやインドなど、世界各国から集まった職人さんたちだったので、その方たちが迷わず作れるような明快なシステムを選定する必要があったからです。そして、ボールジョイント工法は解体、再構築が可能であることにも着目しました。現在、日本館のファサードは、日本に持ち帰って再構築するリユースのプロジェクトも進んでいます。

捉え方や感じ方を分かち合うと目線が合う瞬間がある

独立して2年目の2004年に、ルイ・ヴィトン京都大丸店の店舗を手がけました。建築で今まで使ったことのない偏光板という光学フィルムを使う難しい提案で、私はまだ経験が浅かったので、将来起こるであろう問題を事前に予測できずに苦労しました。それでも、そのときは専門家の方々に支えられて、どうにか着地できました。

世の中に出ると自分1人だけでは、どうすることもできない事態に直面します。そうしたときに、周囲から出てくる意見に耳を傾けることで、それまで思いもつかなかった面白い発想に行きつくことがあるので、いろいろな人の意見を柔軟に聞くようにしています。もともと好奇心が旺盛で、建築でなく舞台セットをつくるなど、学生時代から面白そうだと思うことはやってみようとする性格なのですが、このときの経験は、その後の働き方を方向付ける契機になりました。

クライアントと仕事をするときも、意見が食い違うことがあります。そういうときは目線を近付けるために、例えば、一緒に何かを見に行って捉え方や感じ方を分かち合ううちに目線が合ってくる瞬間があります。それで滞りなくプロジェクトがうまくいったこともあります。最初から、がっちり目線が合って進むというのは、むしろ奇跡的なことです。相手のこれまでのバックグラウンドを吸収しながら、「これから先の形って、こうなんじゃないか」と皆が思えるものを一緒になって探すようにしています。

戦わない、諦めない、粘り強く互いに歩み寄る

人と戦うのはあまり好きではないので、戦わずにうまく進める方法をいつも考えてきました。強引に自分の意見を押し通しても、建築物は工期が長く、気まずい状態のまま現場を見ていくのは大変です。自分の意見が受け入れられなかったら、「もう一度、考えてきます」と言って、いったん引き下がり、次の週に同じ案を出すこともあります。「どうやったらできるか一緒に考えてください」と諦めずに仲間になってもらうようにしています。相手側から見える絵を想像し、どういう言葉であれば、お互いに歩み寄れるかを探り当てていきます。

私にとってダイバーシティとは、間近な目の前で起こっていることなのです。やってみないと問題がどこにあるのか分からず、トライ・アンド・エラーを続けるしかありません。「こっちかな、あっちかな」と迷いながら進むことで、ようやく道が開けるという感覚です。最近は「これをやると問題が起こるからやめよう」といったネガティブさ、世の中の息苦しさが気になります。チャレンジすること自体の成功体験をどれだけ見せられるか、「ああやれるんだ、次も絶対やってみよう」と思わせられるかが大事なのかなと思います。

同じ目的意識を持ち、当事者になって互いを理解する

DE&Iの視点で一緒にものを作っていくときに大切だと思うのは、まずチームの皆が同じ方向を向き、同じ目的意識を持つことです。1つの目的に向かって動くことで視線を合わせ、そのうえで同じ空間を共有することが重要でしょう。そうして共に当事者になってお互いを理解するのです。何時間も話し合うよりも、一緒に作業することで生じる団結力は、言葉を超越するかもしれません。オンラインの世界が便利になればなるほど、同じ空気を吸うことの大切さを実感しています。

私たちは、チームが100%以上、150%とかの力を出してもらわないと実現できないことをやっていると自負しています。誰か1人が違う方向を向くと終わってしまうんです。全員が一緒に力を出してもらうためには、どうしたらいいんだろう、と常に考えています。

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