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月刊 経団連 面白さを生む原動力は「違い」

JOINnovator! ─DE&Iを楽しむイノベーターたち
本島 なおみ
MS&ADインシュアランスグループホールディングス執行役員(DE&I担当)
Naomi Motojima
1987年、一橋大学法学部卒業。女性総合職一期生として住友海上火災保険(現 三井住友海上火災保険)に入社し、保険金お支払い部門、経営企画部、グループ会社など多岐にわたる部門を経験。
2014年 傷害疾病損害サポート部長、18年 執行役員、21年から常務執行役員。持株会社・MS&ADインシュアランスグループホールディングスの執行役員(DE&I担当)を兼務する。
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私は、MS&ADインシュアランスグループホールディングスでダイバーシティ、エクイティ&インクルージョン(DE&I)担当の執行役員を務めています。傘下の損害保険会社3社と生命保険会社2社、グループ全体のDE&Iを進めるのが今の私の役割です。会社にはたくさんの人が関わっています。個々人の多様性を尊重し、それぞれの強みを活かせば組織も強くなる、それが企業におけるDE&Iの本質だと考えています。

役員と社員との対話の仕組みでインクルーシブなリーダーシップを学ぶ

私は均等法第一世代ですが、これまで職場で女性だからやりにくいと感じることは、ほとんどありませんでした。出産や子育てを経て、その場その場で悩みもがきながら、とにかく働き続けてきました。意識が変わったのは、管理職となりチームをまとめる立場になった時です。メンバーの個性や強みを引き出し、皆が輝けるようにすることを自分の役割として明確に意識するようになりました。

2021年、ある対話の仕組みを手掛けました。社員6名と役員1名が半年間、月1回1時間半、テーマに即してオンラインのゼミ形式で話し合うものです。メンバー各人が「こんなこともあるよね、難しいよね」と考えを述べ合うなかで、全員が気付きを得ることを目指しています。リラックスした対話を通じ、役員と社員の双方がインクルージョンを体感するのです。

私が主催し司会をした回では、肩の力を抜くようアドバイスされ、自分がうまく進行しようという思いに捉われていることに気付かされました。そこで、司会を他の人に譲ってみると、メンバーの反応がよりフランクなものに変わり、私も気持ちが軽くなりました。各自が主体的に参加して創り出す場ですし、役員にとっては、インクルーシブなリーダーシップを学ぶ場でもあります。自分ひとりだけでは最良の結論にたどり着けないことを体験し、そのことをリーダーがさらけ出し、メンバーにも安心してもらうことが、活発な議論を引き出すポイントです。

従来型のリーダーには、メンバーが異論を唱えられないという状況が一部にありました。カリスマ性や「自分に付いてこい」といったリーダーシップでは、新しいことは引き出せません。時代の変化に合わせて、リーダーシップの形も変える必要があると実感しています。

実際に参加した役員からは、「体験してよかった」という反応が返ってきました。メンバーがリラックスして自由に発言することを新鮮に感じ、そこから生まれるものが有意義であると知ってもらえたのは大きいですね。DE&Iは体験することが大事だと思います。なかなか進まないのは、みんな頭ではわかっていても、体験できていないからなのです。

DE&Iの3つのポイント
正直なこと、勇気を持つこと、謙虚であること

以前、社外の研修で、練りに練った原稿でスピーチをしたら、「腹の底から声が出ていない」と講評されたことがあります。腹の底から本音で話すことで初めて相手に思いが伝わり、説得力が生まれます。「うまく話そう」とするのではなく、「本音で話し、思いを伝えるよう徹する」と心に決めました。そうすると、分かってもらいたいという気持ちから、意識が自分よりも相手に向くようになります。

DE&Iを率先するうえで大切なことは、「正直なこと、勇気を持つこと、謙虚であること」の3つです。これらは、自分が身に付けていたいことでもあります。正直であることって、勇気がいることなんですね。でも正直に話さないと、説得力は生まれません。できるだけ腹の底から考えていることを話し、相手が納得してくれた、心を動かしてくれた、という小さな体験を重ねることが確信につながっています。

批判を恐れずに異なる意見を述べることで、何かを変えられたらいいと思います。予定調和ではないアイデアが出てくると、より良い結論につながるかもしれません。自分が勇気を出すことで前向きな空気を作れるよう、特に会議の場では、積極的に異論をはさむようにしています。意見が合わない時は、無難な形でやり過ごしたくなるけれど、お互いに納得しないと良い結論は導き出せないので、できる限り逃げないで最後まで人と向き合うように心掛けています。そうすることで、いい形につながる経験を積み重ねてきました。その経験から私の今の行動パターンができました。考え抜いて冷静に相手と何回でも話すことが「誠実」ということだと思うので、相手に伝わるように正直に話をするように努めています。

似た者同士で集まっていても発見も成長もない

人との接点から逃げないようにすることも大切です。意見の違う人とコミュニケーションを取ることに抵抗があると思いますが、似た者同士で集まっていても、発見も成長もありません。人との違いを知ることが、今の時代にこそ重要なのではないでしょうか。SNSなどで似た者同士が頷き合える環境は、得られやすく心地よいので、そこに浸っていたくなりますが、あえてそこから抜け出して、考えの違う人とコミュニケーションをとることの大切さを知ってほしいと思います。このことは、若かったときの自分にも言ってあげたいことでもあります。

謙虚であることとは、聴くことに重きを置くということです。今は、プレゼンテーションが重視され、自分を伝えることが大事なこととして、教育でもビジネスでも言われていますが、大切なのは話し手が何を伝えようとしているのかを汲み取ることなのです。自分が何を話したいかよりも、相手の言葉に意識を集中することです。それは相手を尊重することでもあり、そのような対話は実りも多くなることをゼミで実感しました。

私は伝えるのがあまり上手ではないのですが、聴くことができると、会話はちゃんと弾みます。

自分にはない考えや感じ方を知ることで、世界は広がる

DE&Iは、自分と違う人との接点や対話を謙虚に楽しんで、それを活かすことだと思います。アンコンシャス・バイアス(無意識の偏見)のテストなどで、いまだに偏見にとらわれている自分を知ることがあります。きちんと聴くことを通じて、自分を変えていきたいですね。自分にはない考えや感じ方を知ることができれば、狭かった自分の世界が広がることになります。

私のモットーは、「明日、死ぬかのように生きろ、永遠に生きるかのように学べ」というガンジーの言葉です。何かにひるんでしまうようなときに、自分を鼓舞し、そして日々学んでいかなければならないと自分に言い聞かせるようにしています。

身近な人とのやり取りだけでは、新しいことは生まれません。日頃接している人たちよりむしろ、他業種の人や久しぶりに会う友達のような距離のある人たちとの時間を持つことを優先させるように心掛けています。新鮮な発見や気付きは、仕事にも日々の生活にも大切なんですね。面白さを生む原動力は「違い」なのです。

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