イランを中心とした中東情勢の緊張をはじめ、世界的に地政学リスクが高まり、各国の政策も不安定さを増している。その結果、わが国のエネルギーを取り巻く環境は、かつてない不確実性の中に置かれている。このような状況で求められるのは、わが国のエネルギー安全保障と安定供給を確実に維持しながら、同時に2050年カーボンニュートラル社会の実現を見据えてグリーン・トランスフォーメーション(GX)を着実に推進するという、高度な両立の実現である。
そのためにわが国が今後進むべき道は、「エネルギートランジション」と、「エネルギーアディション」を組み合わせた、多層的なアプローチである。既存エネルギーの安定供給を確保しつつ、再生可能エネルギーや次世代燃料といった新たな供給力を着実に積み上げていくことが求められる。とりわけ、液体・固体燃料が持つ高いエネルギー密度や可搬性・貯蔵性は、有事の際に代え難い価値を持つため、これらを低炭素化・脱炭素化しながら活用していくという、現実的な時間軸を描くことが重要になる。
短期的な国際価格や政策動向に左右されることなく、長期的視点で捉えれば、GXの推進はわが国のエネルギー自給率向上につながる。日本が強みをもつ高効率製造技術、化学・材料、燃焼・安全工学などといった領域でGXを深化させることは、優れた技術者の育成を通じて大きな付加価値を生む。技術者が現場で挑戦し、失敗から学んで進化を繰り返す経験こそが、人財育成の核をなすことになる。こうした技術と人の成長の積み重ねが、日本のエネルギー産業のみならず、製造業全体の競争力を高め、国際社会における存在感を再び強固なものへと押し上げる原動力になるだろう。
不確実性の時代だからこそ、レジリエントな長期ビジョンのもとでエネルギー戦略を構築し、社会全体の持続的繁栄につながる確かな一歩を積み重ねていきたい。