経団連は7月15日、「わが国の防衛装備移転のあり方に関する提言~官民協働による望ましい安全保障環境の実現に向けて」を公表した。
本提言は、わが国として、同盟国・同志国との連携強化を図りつつ、国際秩序の安定に貢献していくことが極めて重要であると指摘している。そのうえで、同盟国・同志国に対する適切な防衛装備品の移転は、こうした目的を達成する有力な手段の一つとなるとして、必要な施策を提言した。概要は次のとおり。
■ 背景・課題
わが国では、武器輸出三原則による事実上の輸出禁止期間が長期にわたったことなどから、民間企業は国内向け装備品の納入に専念してきた。このため、国内向け装備品の契約慣行に関わる課題をはじめ、海外への装備移転の経験や、防衛装備品の供給面で課題があり、防衛装備移転の推進には多くの課題が存在する。
防衛予算の増額が見込まれる一方、防衛事業から撤退する企業も増加しており、サプライチェーンの完結性にはほころびが生じている。
将来の需要見通しが不透明であるため、予見性が乏しく新規投資が困難になっているほか、余剰供給能力が確保されていない状況にあり、防衛装備品の供給に関して有事に備えた体制整備も急務となっている。
■ 講じるべき施策
こうした課題を踏まえ、防衛装備移転の推進に当たって、次の四つの施策を講じることが重要である。
1.「防衛装備移転戦略・基本計画」の策定
防衛装備の移転を進めていくためには、防衛省をはじめ関係省庁連携のもと、国として統一的な戦略を策定し、政府が主体的に進める姿勢を明確に打ち出すことが重要である。
その際、重点的に移転を進めるべき対象国・地域や装備品・役務の方向性、移転の枠組みを明確化することが求められる。あわせて、企業の予見可能性を高めるために、国内調達と海外展開の整合性が図られた戦略とする必要がある。
2.司令塔の設置
海外の制度を参考にしつつ、戦略の策定・推進や「GtoG」の装備移転における契約主体機能を担う司令塔を設置することが求められる。その際、実効性を担保するうえでも、官民による協調体制の整備も不可欠である。
3.競争条件向上・リスク低減に向けた政策支援
防衛産業が厳しい状況に直面するなか、防衛装備の移転を円滑に行うためには、諸外国に比肩する政策的・財政的支援を講じることが不可欠である。具体的には、防衛生産基盤強化法の支援対象の拡大や、装備品の価格低減、移転先国に対する包括的な支援パッケージの展開等が求められる。
4.輸出許可等の手続きの迅速化
競争相手国が交渉を進めるなか、国内での手続きがボトルネックになっていれば、装備移転が停滞してしまう恐れがある。こうした課題への対応として、司令塔に権限と調整機能を集中させつつ、審査の迅速化と基準の明確化を図るべきである。
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今後策定が予定されている防衛産業戦略においては、本提言を踏まえ、防衛装備移転の実効性向上に資する政策が具体化されることが期待される。
わが国防衛産業としても、具体的な制度設計に向けた検討に際して積極的に参画・協力するとともに、政府と一体となって、わが国および国際的な安全保障環境の安定と平和の実現に貢献していく。
【産業技術本部】