17歳でNYコレクションにてデビューし、一躍話題となる。以後、世界の第一線でトップモデルとして活躍し、25周年を迎えた。モデルの他、テレビ、ラジオ、イベントのパーソナリティー、女優など様々な分野にも精力的に挑戦。日本人として唯一無二のキャリアを持つスーパーモデルとして、チャリティー・社会貢献活動や日本の伝統文化を国内外に伝える活動など、その活躍の場をクリエーティブに広げている。公益財団法人ジョイセフ アンバサダー、エシカルライフスタイルSDGs アンバサダー(消費者庁)、ITOCHU SDGs STUDIO エバンジェリスト。
DE&Iには、SDGsにもある「誰一人として取り残さない」という考え方が当てはまります。多様性の時代だからこそ、協調性や公平性を持って共感しながら生きていくのがいいのだろうと思います。
17歳で渡米
自分の視野が広がる瞬間
私は17歳のときに、初めて日本を出てニューヨークに行き、モデルとして仕事を始めました。英語も話せない状態で行ってしまったこともあり、初めは、周囲のぶっきらぼうな対応というか、日本のように優しくはしてくれない、ということに驚かされました。自分から働き掛けてアウトプットを示していかないと埋もれてしまいそうで、必死になって目立つ努力をしました。一生懸命、英語を学び、文化的な背景を理解し、自分を変えるように心掛けました。周囲のカルチャーに合わせて、自分も同じ土俵で戦わないとなりませんでした。
そこには、私がそれまでに接したことのないダイバーシティがありました。様々な国籍の人がたくさんいて、いろいろな考え方があって、セクシュアリティーにも寛容でした。とても自由な世界が広がっていたので、カルチャーショックを受けました。「世界のことを何も知らなかったな」と自分の視野が広がる瞬間でした。
全てが「It's up to you」
なんでも試してみればいい
ただし、当時のファッション業界は、エクスクルーシブ(閉鎖的)であったと思います。その頃の業界の世界観は、残念ながら個々のモデルの多様性を認めてはいませんでした。モデルといえば「細くて10代」と決まっていて限定的な美が求められていたのです。しかし、最近は業界全体の意識が大きく変わってきています。人種、国籍、体形、年齢について、これまで限定的だった枠に多様性の幅が生まれています。私が若いときにはなかったことばかりです。これはチャンスでもあるし、とても希望が持てると思います。
エクスクルーシブだった時代は、とにかく負けたくなかったので、がむしゃらに頑張っていました。目標を立て、そこを目指して忍耐強く粘って、それを勝ち取ります。今の時代、忍耐強く我慢することが正解なのかわかりません。私の場合、忍耐力を持ち続けられたけれども、人にはそれぞれキャパシティーがあります。今は「忍耐でがんばれ」という時代でもないですよね。
やりたいことがあればがんばればいいし、「これ以上無理」と思ってやめるのであれば、それは自分の選択です。全てが「It's up to you」、あなた次第。
今やSNSがあるし、海外に行かなくてもできることは多いし、いくつもの道が開けているから、かえって悩むのかもしれません。なんでも試してみればいいのではないでしょうか。まずは一歩、足を踏み出して動き出すのがいいと思います。
昔は、業界はエクスクルーシブが当たり前で、それがラグジュアリー(ぜいたく)なものにつながっていたのです。みんなが憧れるものであって、たどり着きたい特別なところでした。でも今は、インクルーシブな世の中に逆転しています。これまでがんばって作り上げてきた私の物差しやロジックがフィットしてこなくなっているところもあるので、そこを調整しています。
価値観と美しさの多様性を認めていく
DE&Iの大切なポイントの1つは、「利他的」であることです。多様性や公平性を重んじるのであれば、自分中心の利己的な考え方ではなく、他者を尊重する利他的な姿勢であるべきです。相手のことを考えて生きていくということ。日本の文化にある「思いやりの心」は非常に大切で、日本人のDNAの中に組み込まれているように思います。もちろん、自分のことを優先的に考えるときがあってもいいと思いますが、そんなときでも思いやりの心を持てるとさらにいいですね。「この発言は、もしかしたら誰かを傷つけてしまうかもしれない」という気遣いが少しあるだけで、状況が全く違ってきます。仏陀になるのは難しくても、そういう利他的な自分であろうとすることは大事なことだと思います。
2つ目としては、価値観と美しさの多様化が重要です。私はファッション界の人間なので、欠かせないポイントであると思っています。あらゆる個性とその美しさを再認識し、それを認めていくことです。
3つ目は、命の大切さです。地球環境そのものと言ってもいいかもしれません。また、ファッション業界も含めて労働環境に対する考え方が大切になってくると思います。私は幼少期、家の裏に山がある自然豊かな環境で育ちました。そのため、おのずと死生観が育まれたように思います。植物も虫も動物も人も生きています。自然の中のサイクルを知り、命を大切にすることを学びました。死と生が同時に存在する状況は、都会には少なく、動物の死体を目にすることもほとんどありません。スーパーで見る個別にパックされた切り身の魚が象徴的です。
DE&Iという観点で尊敬している人は、英国の動物行動学者ジェーン・グドールさんです。「ナショナルジオグラフィック」などにたまに登場しますが、環境保護や生物多様性を守る活動をしていて、国連平和大使にも任命されています。彼女の研究所は、野生動物の保護から、その活動に携わる若者の雇用までカバーする優れた組織で、そうした活動展開の面でもすてきだなと思います。
日本のDE&Iの行方は「どれだけ早く行動するか」
私がアンバサダーを務める国際協力NGO「ジョイセフ」は、セクシュアル・リプロダクティブ・ヘルス/ライツ(性と生殖に関する健康と権利)を欠かせない人権と考え、途上国において女性や妊産婦の命と健康を守っている団体です。私自身も子育てを経験し、ジョイセフの活動を通じて、DE&Iの大切さを痛感しました。日本におけるDE&Iは遅れていると思うし、解決すべき課題もたくさんあるので、企業や学校の取り組みは、これからも注視していきたいところです。日本企業は、「これからこう変わる」という方針を持っているのではないでしょうか。DE&Iの今後の行方は「どれだけ早く行動するか」にかかっています。少子高齢化で人口が少なくなっていくことはわかっていて、女性もキャリアを持って働き続けられる方がいいわけです。もうギリギリの時期だと思うのですけれど、企業がどれだけ早く動けるのか、注目しています。性の平等(ジェンダーイクオリティ)に関しても、日本は出遅れています。これらの課題に対する取り組みが同時並行的に進むことを願っています。平等性やDE&Iを子どもたちに伝え、日本の将来を担う人を育てることが重要です。日本を担っていく子どもたちをもっとサポートし、注目していってほしいと思います。
100歳までモデルでいるために変革していく
今、私自身、多様性の真っただ中にいます。40歳になりますが、アジア人で、ファッション業界のモデルとしては、マイノリティーなのです。ただ、そのために何かを深く考えたことはありません。モデルの仕事は、好きでやっていることなので。これまでの人生において、つらくて苦しかったことはたくさんありますが、それらの経験は人生を豊かにしてくれました。
ファッション業界は、いち早く新しいことを取り入れるのにたけています。年齢、人種、国籍、体形に関する制限を緩めてダイバーシティを取り入れた時期は早かったと思います。ただ、本当に受け入れたのか、疑問は残ります。閉鎖的だった長い歴史があるし、もしかしたら、流行の一部として吸収しただけなのかもしれません。本当に心から受け入れられるまでには、もう少し時間がかかるかもしれません。それが課題だと思います。
モデルという職業は、DE&Iの波を受けて改善されてきました。その結果、今も私はモデルを続けています。人生100年時代と言われますが、私も100歳までモデルでいられるようにがんばりたいですね。ファッション業界をまだまだ変えていきたいと思います。