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月刊 経団連 巻頭言 住宅への消費税課税を考える

伊藤一郎 (いとう いちろう) 経団連審議員会副議長/旭化成会長

参議院選挙の結果、国会におけるねじれは解消し政策決定の自由度は高まった。だが、待ち受けている政策課題は多い。

まず、2014年4月の消費税率引き上げの決断が迫られる。先進国中、最悪の財政状況を踏まえれば、引き上げは不可避と考える人が多い。

消費税率引き上げに際して、いつも問題になるのが駆け込み需要とその反動に伴う落ち込みだ。通常の消費財であれば1年程度でその影響は落ち着くが、住宅投資の場合は数年に及ぶ。来年度の税率引き上げに際しては、住宅ローン減税の拡充や給付制度の導入などで持家の取得に関しては負担軽減策が講じられている。一方、賃貸住宅の建設に関しては軽減策がないことから、駆け込み需要の発生とその反動減がより大きくなることが懸念されている。

今後、消費税率は15~20%まで引き上げざるを得ないとされている。暮らしの安心・安定の根幹である住まいの消費課税については、少子高齢化社会における住まいのあり方の基本に立ち返って考える必要があるのではないか。

すでに日本の人口は減少に転じているが、世帯数は高齢単独世帯を中心に今後も増加する。住宅ストック全体で見れば空き家率が13%に達し、量的に不足している状況ではないが、かなりの空き家は借り手のニーズを満たしておらず、入居が期待できる状態ではない。

現在の住宅税制は、初めて持家を取得する若年世代を対象とする住宅ローン減税が中心であり、住み替えや賃貸住宅に対する軽減策は少ない。新たに持家を取得する人への補助だけではなく、賃貸住宅も含めたストックとしての住宅の質の向上を促進する方向に、税制の重点を移すことも求められる。

住宅への消費税は、資産取得への課税であり、住宅の質を良くすればするほど税負担が重くなる。そこで、住まいに関する消費税課税をめぐっては、持家、賃貸にかかわりなく軽減税率や還付など安定した恒久的負担軽減策を講じることを将来的には検討するとともに、内需の柱として、少子高齢化社会にふさわしい良質な住宅ストック形成を促す、住宅の質に着目した住宅投資減税を導入することなどが必要ではないか。

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