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月刊 経団連 巻頭言 スピード感のある財政再建を目指せ

勝俣宣夫 (かつまた のぶお) 経団連副会長/丸紅相談役

日本の政府債務残高が膨張を続ければ、財政は破綻への道をたどる。思い返せば、財務大臣を経験した首相の多くは財政再建に前向きであった。これは偶然ではなかろう。財務省の説明に切迫感があったのか。あるいは、国際会議での議論を通じ、財政の健全性がいかに重要であるかを身に染みて感じていたのかもしれない。

財政破綻への対応策として考えられるのは、第一に、大規模な増税である。第二次世界大戦直後の日本では、現預金や不動産に対し25~90%の財産税が導入された。政府は旧円から新円に流通紙幣を切り替えることでアングラマネーをあぶり出し、預金引き出しを制限することで国民の財産を事実上差し押さえた。第二に、大幅な歳出カットである。最近のギリシャで見れば、民間投資家に対して、国債の元本の半分が債務減免の対象とされた。また、年金、公務員の給与をはじめ、国営企業への補助金も削減を余儀なくされた。

こうした事態の二の舞いを避けるためにも、わが国は一刻も早く財政再建に取り組まなくてはならない。ひとたび市場の信頼を失えば、国債の格付けの引き下げと相まって長期金利が上昇し、株安と円安も進む。金融市場は一挙に不安定化し、経済は大混乱に陥るであろう。財政再建を先送りするほど、大きな犠牲を国民に強いることになり、経済的な衰退から立ち直るには多くの年数を費やさなければならなくなる。

財政の建て直しには、歳入増加策と歳出削減策があるが、それぞれに痛みを伴うものであっても大胆に実行することが大切ではないか。どのような批判があろうとも、困難な使命を遂行しなくてはならない。次世代の人々に負担を押し付けることがないよう、財政健全化への展望を切り開いていくのはわれわれの世代の責務である。

このまま政府債務が拡大しても、所詮、国債の所有者は日本人であり、深刻な事態にはならないとの見方もある。このとおりに事が進み、私の懸念が杞憂に終わればよいのだが…。

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